日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈蔦谷栄一の異見私見〉地域特産品「信州人蔘」を協同組合で守る

 JAは地域に深く根差した存在であり、地域と一体となっての活動展開を本来とする。しかしながらそれが当然とはいえ、これにともない困難を避けられないことも多く、言うべくして容易ではない。その中にはJAに置かれた部会の扱いが含まれるケースもある。部会はJAと一体的に活動していくことが求められるものの、就業規定や給与規定等のJAの運営ルールで一体化が難しく、また税務問題も絡んで部会の運営継続そのものが困難となるケースも少なくない。こうした中で、〝協同組合内協同〟とでも言うべく事業協同組合として独立させながら、部会活動を実質継続させ、そのうえでJAと連携・一体化させての取組みによって活路を見出そうとのト...

〈行友弥の食農再論〉「じゅうねん」を過ぎても

 畑に近づくと、さわやかな香りが鼻をうった。昨年10月、福島県飯舘村でエゴマの収穫作業を手伝った時のことだ。  エゴマはシソ科の植物で、その葉は青ジソと見分けが難しい。似たような芳香も放つ。健康に良い不飽和脂肪酸が豊富に含まれ、福島では「食べれば10年長生きできる」という意味で「じゅうねん」と呼ばれることは、以前も当欄で書いただろうか。  集まったのは同村南部の大久保・外内(よそうち)行政区の住民でつくる一般社団法人「いいたて結い農園」のメンバーと、その知人ら計20人程度。筆者も代表理事の長正増夫さんと数年前に知り合った縁で、いわき市に住む元同僚を誘い前年に続き参加した。  機械(除草用...

〈蔦谷栄一の異見私見〉土づくりをみどり戦略展開の基本に

 2021年5月に決定され、昨年7月にその根拠法となる法律が施行されたみどりの食料システム戦略は徐々に浸透し、各地で具体的な取組みも芽生えつつあるようだ。中でも肥料価格高騰の影響もあって、化学肥料の使用を減らし堆肥にシフトする動きについての報道が増えている。そしてこれは土壌診断とセットになって推進されているものが多いようだ。土壌診断によって不足している成分を明らかにし、これによって適正施肥を行い、過剰な肥料投入を避けることを基本にしている。この土壌診断による適正施肥は重要であり、異論はないのであるが、そのベースには〝土づくり〟への取組みが置かれてしかるべきだと考える。  土づくりのキーワード...

〈行友弥の食農再論〉スマート農業の光と陰

 福島第1原発事故で約6年間の全村避難を強いられた福島県飯舘村。その地で和牛の繁殖を営むある若手農家は、母牛の体に取り付けたセンサーで体温を測定し、出産などの兆候をスマートフォンに知らせるシステムを活用している。子育てなどの事情で隣町からの「通い農業」を続ける彼にとって、離れていても家畜の状態が把握できる仕組みは心強い味方だ。  人口減少と高齢化が一気に進み、農業の担い手が足りない被災地では、スマート農業の導入が進められてきた。南相馬市小高区では、自動運転のトラクターなどを使い、100ha規模で米やナタネなどを生産している株式会社もある。営農情報を統合的に管理する「農業クラウド」も導入し、そ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉21世紀の「武蔵野新田開発」構想

 新しい年を迎えたが、平和な一年となることを切に願う。  農業界では酪農に象徴されるように農家経営は逼迫し、経営の持続が懸念される中、食料安全保障や新基本法の検討、みどりの食料システム戦略の実践等重要課題が山積する現状にある。まさに農政のあり方も含めて抜本的な梃入れが求められるが、併行して地域レベルでの生産者や消費者が連携しての地域循環形成に向けての取組みも強く求められている。新年最初の記事でもあり、関連して自らの本年の目標、〝夢〟を語ってみたい。  江戸時代中期、享保の改革のいっかんとして行われた武蔵野新田開発を成功に導いた府中・押立村の名主で新田世話役として幕府に取り立てられた川崎平右...

〈行友弥の食農再論〉1本の用水路から

 3年前、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲さんの記録映画「医師 中村哲の仕事・働くということ」を先日見た。中村さんについて一応は知っているつもりだったが、思っていた以上に偉大な人だったことがわかり、深く感銘を受けた。  中村さんは80年代からパキスタンで医療に携わり、旧ソ連の侵攻で荒廃したアフガニスタンにも診療所を開いた。戦乱と干ばつで農地はひび割れ、雑草も生えない状態だった。栄養と水の不足で単なる下痢でも命を落とす子どもたちに、彼は「100人の医者より1本の用水路だ」と立ち上がった。  畑違いの土木技術を学び、自ら図面を引いた。「農業をやり、自分たちの手で国を立ち直らせたい」と訴える現...

〈蔦谷栄一の異見私見〉SDGsを下支えする資源リサイクル産業

 愛知県といえばトヨタ自動車、がすぐに頭に浮かぶように、自動車や機械等の製造業が盛んであるが、渥美半島の電照菊や施設園芸、名古屋コーチンがよく知られるように農畜産業も盛んで、農業産出額約4分の1を畜産が占める畜産大県でもある。  名古屋から西に名鉄電車を使って15分のあま市に、㈱堀田萬蔵商店を中心とする堀田グループの工場があり、友人からの誘いに乗って見学してきた。畜産物の資源リサイクルを業とするグループであるが、食用とならない不可食部位を食品原料・飼料・燃料等に再生利用するレンダリング事業、原皮・皮革事業、ペットフード事業の三つの事業からなる。  話しは一転するが、牛は概ね生体重量700k...

〈行友弥の食農再論〉未来を選ぶ「てまえどり」

 スーパーなどの食品売り場で「てまえどり」という表示を見るようになった。説明は不要かも知れないが、食品ロス削減の取り組みだ。手前に置かれた商品、つまり賞味期限が近いものを買うよう勧め、期限切れによる廃棄を減らす。少しでも新鮮なもの、日持ちするものを買いたいという消費者に再考を促す効果は大いにあるだろう。  文章で書くとこんなに長くなることを、たった5文字で伝える「てまえどり」。誰が考えたかは知らないが秀逸だ。行動経済学でいう「ナッジ」(ひじを軽くつつくように注意喚起し、望ましい行動に導く)の一種といえる。環境や人権など社会問題の解決につながるエシカル(倫理的)消費が叫ばれているが、理屈っぽい...

〈行友弥の食農再論〉鏡を壊すなかれ

 統計は社会が自らの姿を映す鏡である。鏡がゆがむと、社会は針路を誤る。以前も紹介したが、吉田茂元首相はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のマッカーサー最高司令官に日本の統計の不正確さを指摘され、こう答えた。「統計が正確なら、あんな戦争(太平洋戦争)はしなかった。統計通りなら、こちら(日本)が勝っていた」。実は統計上も日本の敗北は予想されていたが、統計の重要性を吉田が認識していたことは確かだ。  その吉田政権下で終戦の翌年に発足したのが、政府の「統計制度の改善に関する委員会」(略称・統計委員会。現在は総務省所管)だ。国政の根幹にかかわる基幹統計調査では、統計委員会の審議を経なければ内容の変更...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「カーボン・ファーミング」の衝撃

 先の9月16から18日、東京・浜松町にある東京都立産業貿易センターで第7回目のオーガニックライフスタイルEXPOが開かれた。これと併行して日本オーガニック会議の主催によるオーガニックカンファレンスとして、各種パネルディスカッション等が続いた。  日本オーガニック会議は先に取り上げたことがあるが、「サスティナブルな社会実現のため、有機農業を核とした持続可能な農業やオーガニック市場の拡大を目的として、生産・加工・流通、その他関連事業の実務者等が横断的に集う会議。政策立案者や学識者等とも協力しつつ、建設的な議論を活性化し、政策提言等を行い、イノベーティブな行動変容を創り出すプラットフォーム」を目...

〈行友弥の食農再論〉禍を転じざれば…

 トーストやサンドイッチにする四角いパンは英国発祥。固焼きで棒状のバゲットや三日月型のクロワッサンはフランス生まれ。前者が日本で「食パン」として定着したのは、明治政府と英国との親密な関係が背景だという説がある。  また、第2次世界大戦後は米国から援助物資として大量の小麦が供与され、学校給食はパン食が基本になった。給食の「コッペパン」は日本独自の名称だが、米国式のパンが原型らしい。  食の欧米化が小麦の消費を拡大させた。農林水産省の統計によると、1965年度の国民1人あたり年間供給量は米112kg、小麦29kg。昨年度は米52kg、小麦32kgだった。米は半減し小麦は横ばいだ。生活様式や家族...

〈蔦谷栄一の異見私見〉水田は国の基、都市農地は国の宝

 農林水産大臣に農政通で現場に精通した野村参議院議員が就任したことも手伝ってか、食料安全保障をめぐる議論はよりにぎやかさを増しつつあるようにも感じられる。  野村農相は新聞社インタビューで、食料価格の高騰にともない、「食の基本になる麦や大豆、こういったものが(国産は)非常に不足している」と述べ、麦・大豆増産に政策を集中していくことを強調している。今回は、これはこれで必要であり、重要な対応であると受け止めていることを前提にしての話である。  8月18日の農政ジャーナリストの会で、福島大学の生源寺眞一食農学類長が語っていたが、日本では「フードセキュリティ」を「食料安全保障」と訳して両者が同意語...

〈行友弥の食農再論〉不思議の勝ち

 また記者時代の思い出話で恐縮だが、2006年度の食料自給率(カロリーベース)が39%に下がったことを受け、毎日新聞に連載記事を書いた。農林水産省に食料安全保障課(現・食料安全保障室)が新設され、自給率向上を目指す国民運動「フードアクションニッポン」が始まったころだ。  翌07年度の自給率は40%を回復し、08年度は41%に上昇した。国を挙げた施策やキャンペーンが功を奏したのか。それとも、食料安全保障に警鐘を鳴らす報道が国民を動かしたのか。  違うだろう。当時の農水省は国内の生産増を理由に挙げた。しかし、07、08年は海外産地の不作や市場への投機資金流入で穀物価格が急騰。貿易統計によると、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉食生活と水田農業のあり方を問い直すべき時

 このところ食料安全保障さらには食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の見直しを巡る議論が活発化している。自民党は、総合農政調査会と食料安全保障に関する検討委員会等による合同会議で、5月19日に食料安全保障政策に関する提言をまとめた。これを受けて政府は6月7日に経済財政運営と改革の基本方針を閣議決定。同じ7日に新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画をやはり閣議決定しており、さらに6月21日には農林水産業・地域の活力創造プランを改訂している。  いずれも基本的な内容には変わりなく類似したものとなっているが、活力創造プランを取り上げてその中身を見れば、直面する危機に対応するために必要な施...

〈行友弥の食農再論〉無駄やムラにも意味がある

 福島原発事故の被災地では、スマート農業の導入が進んでいる。農業者が大幅に減ったので、少数精鋭で農地を守り、生産を維持しなければならない。先進技術による作業の効率化がその助けになることは間違いない。  福島県飯舘村で和牛の繁殖を手がける男性は、牛の体に付けたセンサーで体温を常時計測し、発情や分べんの兆候があるとスマホに情報が届くシステムを使っている。子どもの教育などの事情で村に帰還せず、通いで畜産を営む彼にとって、離れた場所から牛の状態を把握できる技術は強い味方だ。  実は「スマート農業は『もろ刃の剣』ではないか」と思っていた。少人数で農業ができるようになれば「地域のにぎわい回復」という意...

〈蔦谷栄一の異見私見〉化合させたい JAとワーカーズコープ

 労働者協同組合法は2020年12月に成立したが、その施行をこの10月1日に控える。労働者協同組合(以下「ワーカーズコープ」)連合会のシンクタンクである協同総合研究所によれば、労働者協同組合法の成立にともなって、ワーカーズコープの設立・活用について、現場から400を超える相談が舞い込んでいるという。福祉、医療、住まい・宿泊・暮らし、学び(教育・学習)、文化・芸術等、多様な分野からの相談がある中に、食・農・環境についての相談も多く、マルシェ、共同売店、子ども食堂、カフェ等とともに、有機農業、里山再生、農福連携、さらには竹林整備、都市緑化等についての相談が寄せられている。  この労働者協同組合法...

〈行友弥の食農再論〉「優等生」の嘆き

 若い人には驚かれそうだが、子どものころ、バナナは高級品のイメージがあった。それが今は安価な果物の代表格だ。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯が昨年1年間に購入したバナナの平均数量は19.8kg。リンゴの10kg、ミカンの9.7kgを大きく引き離し果物類のトップだ。  「物価の優等生」といえば鶏卵だが、バナナもそうだろう。かつて台湾産が主流だったバナナは1963年の輸入自由化をきっかけにフィリピンからの輸入が増え、それによって大きく値下がりした。おいしく栄養豊富なバナナを日常的に食べられるようになったことをフィリピンの生産者に感謝しなければならない。  しかし、そのフィリピンからSO...

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本農業のあるべき姿 議論を

 自民党はこの5月19日、総合農林政策調査会(江藤拓会長)、食料安全保障に関する検討委員会(森山裕委員長)、農林部会等による合同会議を開催して、食料安全保障政策に関する提言をとりまとめた。提言は大きく、「『食料安全保障予算』の検討方向」と「食料・農業・農村基本法の見直しを含む『中長期的な検討課題』」に分かれる。  「『食料安全保障予算』の検討方向」であげられている項目を列記すれば、①価格高騰対策、肥料の安定確保体制の構築、国内資源の有効活用、②輸入依存穀物(小麦・大豆・トウモロコシなど)の増産、備蓄強化、➂米粉の増産・米粉製品の開発、食品産業国産原料への切替促進等、④みどりの食料システム戦略...

〈行友弥の食農再論〉給食を「学び」の場に

 穀物価格が急騰した2008年は、輸入食品をめぐるさまざまな問題が浮上した年でもあった。1月に起きた中国製冷凍ギョーザの農薬混入事件は、千葉と兵庫で10人が中毒症状を訴え、女児1人が一時、意識不明の重体になった。9月には基準値を超える農薬やカビ毒に汚染された輸入米が不正に転売され、学校給食にも使われていた事実が発覚した。  前者については、毎日新聞「記者の目」欄で論争が起きた。経済部の中村秀明記者は、翌年の消費者庁発足につながる消費者保護の強化論に疑問を投げかけ「消費者は守られるだけの存在でいいのか。食の安全や生産現場の環境・人権問題などについて『学び』を促すことも必要だ」と指摘した。  ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本オーガニック会議と環境調和型農業

 みどり戦略法案がこの4月22日に可決・成立した。本法は農業の環境負荷低減を目指して、農家や食品事業者、消費者らの理解・連携を基本に、化学肥料・農薬の低減や有機農業などの実現に取り組む農家を融資や税制で支援する仕組みの創設等を見込む。  昨年5月に決定されたみどり戦略は当初、唐突感をもって受け止められたものの、少しずつ浸透しつつある。JAグループは昨年10月29日に開かれた第29回JA全国大会で、「みどりの食料システム戦略をふまえた環境調和型農業の推進」が含まれた大会議案を決議している。具体的には「化学肥料・化学農薬の使用量削減や温室効果ガスの排出低減に向け、土壌診断にもとづく適正施肥や耕畜...

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