日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉給食の「ありよう」を考える

 以前、当欄で学校給食について論じたことがある。物価高を背景に各地で小中学校の給食無償化を求める住民運動が起きていることに触れ「義務教育なのになぜ有償なのか」と疑問を投げかけた。給食を無償で提供する自治体は財政力のある東京都区部などに偏るが、平等であるべき義務教育の場に格差があるのはおかしいし、東京一極集中に拍車がかかる懸念もある。  政府も無償化を検討し、昨年12月に自民・公明・日本維新の会の3党が「いわゆる給食無償化」(学校給食費の抜本的な負担軽減)で合意。今年4月から実施された。小学校の児童1人あたり月額5200円を国が自治体に交付し、保護者負担を減らす内容だ。  だが、この施策の評...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「コモンズとしての食と農」からの日本農業再生

 労働者協同組合は、「働く人がみんなで出資し、一人一人の意見を反映して運営を行い、よい仕事や地域づくりを目指してともに働く、協同労働の協同組合」であり、ワーカーズコープの通称で随分と知られるようになってきた。戦後の失業対策事業を皮切りに事業の展開を重ね、2020年12月4日には労働者協同組合法が成立し、法的にも協同組合としての位置づけを獲得して現在に至っている。組合の設立は3人以上の発起人により、届け出だけで設立が可能だ。本法第一条の目的に明記されているように、「地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的」としており、時代...

〈行友弥の食農再論〉小さな声に耳をすませて

 広島市北部で栽培される「広島菜」は漬物にすると歯切れがよく、特有の香りとピリッとした風味があるという。  主産地の川内地区はかつて独立の「川内村」だった。1945年8月6日の原爆投下の際は家屋に被害が出たが、住民で構成する「川内村国民義勇隊」が広島市内で建物の解体作業などに当たっていた。約200人の隊員全員が被爆し、亡くなったという。  大半は働き盛りの男性だった。一家の大黒柱を失った妻たちは戦後、悲しみに沈む暇もなく農業を営んで家計を支え、助け合いながら家事や育児に励んだ。広島菜が今に伝えられるのは彼女たちのおかげだろう。  その体験を記した知られざる名著が、神田三亀男編「原爆に夫を...

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本農業の運命は、消費者にかかっている!

 本稿見出しは、7月20日に篠原信氏が、SNSで発信した「日本農業の運命は、国民の99%以上を占める消費者にかかっている」のタイトルを短くして引用したものである。この情報が話題となってシェアを繰り返されて拡散し、私のfacebookにも届いた。  その訴えるところは「ここ二週間ほどで日本農業の運命が決まる。」「このままでは、コメの価格は暴落するだろう。すると『やはりコメ農家では生活していけない』と絶望し、一気大量にコメ農家が廃業するだろう。そして廃業した分の田んぼを、残る大規模農家が受け止めきれず、多くの田んぼが放棄されることになるだろう。その結果、日本人全員にコメを供給するだけの田んぼの面...

〈行友弥の食農再論〉「きれいごと」だとしても

 福島県飯舘村の農業法人に勤めていた昨年、農福連携に取り組んだ。福祉作業所で働く知的障害者に、エゴマの実に混じる不純物(雑草の種など)を取り除く作業を一緒にやってもらったのだ。農業法人が解散したため2回で終わってしまったが、貴重な体験だった。  仕事は丁寧で、コミュニケーションにも問題はなかった。冗談を言って笑い合うこともあった。若い男性が「僕の姉ちゃんは優秀なのに、こんな弟が生まれちゃって申し訳ないよ」と話した時は返答に窮したが。  もちろん、そんな風にできたのは参加者の障害の程度が軽かったからだろう。10年前の明日(26日)、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19...

〈蔦谷栄一の異見私見〉あと3年? それとも5年?

 日本列島全体が本格的な梅雨に入ったが、このところの農業・農政の動向には梅雨空と同じく鬱陶しく感じることが多い。とりあえず二つの話しを。  改正食糧法案をめぐって6月22日、農民連主催による「食糧法改悪ストップ!院内集会」が参議院会館で開催され、ZOOMで参加した。リアル参加50人、オンライン参加125名と、それなりの盛り上がりを見せた。国会議員の挨拶に続いて参加者の意見表明が行われ、生産農家4名から、各地域の農業の現状等についての報告・発言があった。特に印象深かったのが山形県長井市の生産農家で、令和の百姓一揆の実行委員会代表である菅野芳秀さんの話しだ。「離農者が増加しており、これにともない...

〈行友弥の食農再論〉「ふるさと」を応援するなら

 「ふるさと納税」は納税ではなく寄付だが、その額が税控除の上限額以内なら実質2000円の負担で返礼品が手に入る、お得な制度だ。ネットの仲介サイトには豪華商品が並び、さながら「官製ネット通販」の様相を示す。片山善博・大正大学特任教授(元総務相)ら専門家は税の公平性や応益負担の原則を損なういびつな制度と批判し、筆者もそう考えていた。  しかし、3月まで地域おこし協力隊として活動した福島県飯舘村では、地元産のエゴマ油をふるさと納税の返礼品にすることになった。役場と相談しながら国への申請と仲介サイトへの登録や発送業務などを担当。注文は月1、2件程度だったが、多少の地元貢献にはなったと思う。  内心...

〈蔦谷栄一の異見私見〉みどり戦略の土台を担うJAグループ

 みどりの食料システム戦略(以下「みどり戦略」)が策定されてから、この5月12日で5年になるとして、同日付の日本農業新聞に、「目標達成 道半ば」なる見出しでその進捗状況の報告記事が掲載された。  みどり戦略は、2050年までに、➀有機農業を全農地の25%(100万ha)に拡大、➁化学農薬の使用量半減、➂化学肥料の使用量3割減、を目標とするもので、特に➀の有機農業については当時の有機農業比率0・5%からして〝無謀〟ともいうべき数字が打ち出され、「農水省(職員)が有機農業をやるのか」との揶揄も飛び交った。EUは2030年に有機農業比率25%を目標にしており、これを20年遅れながらも目標に据えたも...

〈行友弥の食農再論〉ナシ農家の憂うつ

 2008年だから18年前になるが、食料自給率をテーマにした新聞の連載企画でナシの花粉について取材をしたことがある。中国からの輸入がストップし、ナシ農家が困っていると聞いたからだ。  そもそも花粉を輸入しているというのが初耳だった。ナシは自分の花粉では実を付けない「自家不和合性」があり、他の木(多くは別の品種)から採取した花粉を付ける必要がある。それは知っていたが、省力化のため輸入花粉を機械で吹き付ける方法がいつの間にか広がっていた。  千葉県市川市のナシ農家を訪ね実情がわかった。背景は生産者の高齢化だ。手作業で花粉を集め、授粉するのは大変な作業だ。取材した生産者も70代。夫婦で1.2ha...

〈蔦谷栄一の異見私見〉違和感が大きい水田政策見直し

 水田政策の見直しが進行している。4月21日に農水省は基本的考え方案を自民党の農業構造改善転換推進委員会に示したことが報じられており、この新たな水田政策の基本的枠組みは骨太方針に反映させる、とされる。新たな水田政策は、昨年4月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画に基づき、農業構造転換集中対策を講じつつ、生産面・需要面の双方を強化することをねらいだとする。そしてその見直しの方向性は、基本法が、「生産性向上」と「付加価値向上」により、将来にわたり国民への米をはじめとする食料の安定供給を確保し、「食料安全保障の確立」を図ることにしているとし、水田政策の見直しは、作物ごとの単収向上等による生産性向上...

〈行友弥の食農再論〉空気からパンを作る

 「空気からパンを作る」などと言ったら笑われそうだが、農芸化学の専門家が言う比喩(ひゆ)だ。空気の78%を占める窒素から化学肥料を作り、その肥料で小麦を育て、その小麦がパンになることを意味する。  具体的には空気中の窒素を水素と反応させ、肥料の元になるアンモニアを生成する。20世紀初頭に2人のドイツ人化学者が開発した「ハーバー・ボッシュ法」だ。その技術が農業生産力を飛躍的に高め、食料増産を支えた。近代農法の重要な基礎と言えるだろう。  問題は水素を何から得るか。かつては石炭を、現在は主に天然ガスを使う。天然ガスの代表的な産地がカタール、サウジアラビア、オマーンなどのペルシャ湾岸諸国だ。アン...

〈蔦谷栄一の異見私見〉南斗六星子と大地性

 八幡正則著『怠れば、廃る 農協運動心得六か条』(南方新社)を読んだ。著者である八幡さんは昨年の11月1日に95歳で永眠され、この3月の8日に八幡さんを偲ぶ会が鹿児島市で開催されたことから筆者も参加してきたが、会場には八幡さんの出版物や資料が置かれ、持ち帰り自由となっていた中から頂いてきたものだ。  実は八幡さんとの実質的な交流が始まったのは、2021年の少し前頃からである。鹿児島へは県庁の依頼を受けて幾度か講演に足を運んでいるが、その都度、必ず最前列の真ん中で私の話に耳を傾け、講演の後、必ず控室に寄られて、感想を述べて帰られたのが八幡さんであった。そうしたことで八幡さんが塾長をつとめておら...

〈行友弥の食農再論〉復興って何だろう

 15日付の紙面にも書かせてもらった通り、地域おこし協力隊員として1年半を過ごした福島県飯舘村を来月離れることになった。東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故から15年。個人的にも一区切りを迎え複雑な感情が渦巻く。特に考えるのは「復興とは何か」ということだ。  被災地の風景は変わった。津波で壊れたままの建物を見ることは少なくなり、道路などのインフラはむしろ良くなった。盛土でかさ上げした土地に新しい街ができた。高い防潮堤が築かれ、海辺なのに海が見えなくなった地域もある。  原発事故による避難指示が出た地域でも、住民の帰還を促そうと立派な箱物が次々できた。農地などに積まれた除染土の袋も...

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〈特別寄稿〉東日本大震災・福島原発事故から15年/行友弥氏

「ふるさと」を取り戻す飯舘村の闘い    東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故から15年。これまで記者・研究者として福島県を中心に東北の被災地に通い、2024年10月からは地域おこし協力隊員として同県飯舘村の農業法人に勤務してきた。しかし、その法人は今月末に解散し、筆者も村を離れることにした。その反省も込めて被災地の現状と課題を改めて考えたい。   お金では償えない「喪失」  11年3月の災害発生時、筆者は農林水産業を担当する新聞記者だった。想像を絶する被害に驚き、1次産業が盛んな東北地方の状況を案じたが、原発事故による農産物の出荷停止な...

〈蔦谷栄一の異見私見〉国民自らが食料安全保障を担うべき時代に

 2月8日に投開票された衆議院選挙は、筆者にとってもまったく予想外の結果となった。自民党だけで316議席を獲得、維新を含めると352となり、定員465の75.7%を与党が占める圧倒的勝利となった。自民党の議席増加が118。中道の議席減少が同じ118。旧公明党は1議席の増であったことから、旧立憲の惨敗であったとしか言いようがない。サナエブームが大きかったと同時に、立憲が公明と組んだ中道改革連合に対する国民の違和感が同じほどに大きかったのかもしれない。  今回選挙に対する筆者の思い入れにはきわめて強いものがあった。2024年6月に改正食料・農業・農村基本法が成立し、食料安全保障を柱に改正が図られ...

〈行友弥の食農再論〉カカオ・ショックの裏側

 先日のバレンタインデーでチョコレートを渡した女性、受け取った男性はどれだけいるだろう。いわゆる義理チョコを含め、女性が男性に贈る習慣はすたれつつあるようだ。ある企業の調査では、バレンタインデーで誰かにチョコを渡す予定が「ない」とする女性は年々増え、昨年は4割を超えたという。  原料価格の高騰もチョコ離れの一因だろう。カカオ豆の先物取引価格は2023年秋から急騰し、24年末にはニューヨーク市場で1トンあたり1万2000ドルを超える史上最高値をつけた。その後は下落に転じたが、最近も以前の数倍の水準が続いている。  日本の菓子メーカーは関連商品の値上げを余儀なくされているが、カカオ由来の原料が...

〈蔦谷栄一の異見私見〉直接支払制度の導入と国民運動の展開

 「物価高対策が最優先で解散は考えていない」と繰り返していた高市首相が、1月19日の記者会見で、23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散し、27日に衆院選を公示、2月8日を投開票日とすることを表明した。当初予算を年度内に成立させたうえで、解散・総選挙に打って出るとの予想が外れ、これはこれはと思っているところに今度は立憲民主党と公明党による新党の結成。先の自民・公明の連立政権が自民・維新の連立政権に組み替えられ、自民・維新vs中道改革連合の構図による総選挙と情勢変化はめまぐるしい。  政界の再編話はともかくとして、高市政権発足以降、急激に進行する国債価格の下落と長期金利の上昇、そして円安の進行がす...

〈行友弥の食農再論〉安全を「過小評価」するな

 新年早々、中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県)3、4号機をめぐる不正が発覚した。再稼働へ向けた審査で同社が国に提供した基準地震動(想定される最大の揺れ)が意図的に過小評価されたものとわかり、原子力規制委員会は審査を白紙に戻した。  不正は関係者による昨年2月の公益通報で明らかになったという。通報がなかったらどうなっていたか。浜岡原発は南海トラフ巨大地震の想定震源域にある。災害リスクを軽視すれば、15年前の東京電力福島第1原発事故に匹敵する過酷事故になりかねない。  福島の事故を受け、国内の全原発がいったん運転を停止した。しかし、翌年7月には関西電力大飯原発(福井県)3、4号機が近畿地方の...

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〈2026 新春に思う〉摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 准教授 副島久実氏

農業経営への女性参画をすすめるために   女性自身の選択や意思がどこまで尊重されているか  国連は2026年を「女性農業従事者の国際年」と定めている。世界の農業を支えてきた女性の存在を、単なる労働力としてではなく、経営や意思決定の担い手として正面から捉え直そうという動きである。この問いかけは、日本の農業、そして地域農業に関わる一人ひとりに向けられている。  私はこれまで、漁村女性の調査研究を中心に行ってきた。漁業の現場においても、女性は日々の作業や家業の維持に欠かせない存在でありながら、経営や意思決定の場面では、その役割が十分に意識されてこなかったケースも少なくない。調査の過...

〈蔦谷栄一の異見私見〉〝失われた25年〟から脱却の年に

 新年あけましておめでとうございます。この年が、崖っぷちに追い込まれた日本農業の、再生にむけたスタートラインとなることを切に祈りたい。  今後の農政スケジュールは、昨年末の補正予算も踏まえて、基本計画の目標年度となる2030年度に向けて構造転換集中対策が加速されることになる。➀農地の大区画化、②共同利用施設の再編・集約化、➂スマート農業技術・新品種の開発・実装、➃輸出産地の育成、が柱となる。あわせて27年度からの新たな水田政策に向けての見直しが予定されており、➀水活交付金の抜本的見直しによる作物ごとの生産性向上等への支援増強、②不安なく増産に取り組めるような新たな政策への転換、を目指そうとし...

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