日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈蔦谷栄一の異見私見〉検証が必要な野菜の栄養価低下

 以前から指摘がなされ、気になっていた一つが野菜の栄養価の低下である。科学技術庁から日本食品標準成分表が発表されており、5年ごととも言われるものの概ね不定期に改定が行われている。この食品成分表で野菜可食部分の100g当たりの栄養成分量が示されている。これにより1963年、1982年、2020年栄養成分含有量の推移を見てみると、カルシウムの場合、ほうれんそうで1963年98mgであったものが、1982年55mg、2020年69mg。だいこんで同じく190mg、30mg、23mg。かぼちゃで44mg、17mg、22mgとなっている。またビタミンCの場合、ほうれんそうで100mg、65mg、19mg...

〈行友弥の食農再論〉鳥はまたいで通っても

 かつて北海道の米は評価が低く「鳥もまたいで通る」「やっかいどう米」などと言われた。ただ、学生時代まで北海道で暮らし、基本的に地元の米を食べていた筆者は、特にまずいと思わなかった。先日、ある会合で会った新潟日報の記者にその話をしたら、彼は「実は新潟の米も昔は『鳥またぎ米』と呼ばれていました」と教えてくれた。県を挙げての努力とコシヒカリという品種の普及が新潟を「米王国」に押し上げたのだ。  その王国が揺らいでいる。銘柄米の最高峰とされる新潟・魚沼コシが日本穀物検定協会の食味ランキングで最上位「特A」を逃したのは5年前(生産年は2017年)。28年ぶりの「転落」が県内外に波紋を広げた。翌年には特...

〈蔦谷栄一の異見私見〉〝見えないもの〟の重要性と必要な情報発信

 「価格転嫁『できず』7割」。これは日本農業新聞の10月24日号一面トップ記事の見出しである。集落営農組織や農業法人を対象にした景況感調査のとりまとめ結果をリポートしたもので、農家の約7割は生産コスト高騰に見合う農家手取りの米価を1万4千円以上としていることを受けて、米価については生産コスト高騰分の転嫁が「全くできていない」と集約したものである。  これは農産物価格を米価に代表させて分析したかたちとなっているが、実感からして他の農産物も同様な傾向にあるものと推測され、牛乳・乳製品も含めた畜産物についてはさらに厳しい実態に置かれているのではないかと思料する。  こうした情報に接して感じること...

〈行友弥の食農再論〉青い空と「自由」

 東京・阿佐ヶ谷の小劇場で「同郷同年」という演劇を見た。登場人物は谷間の町に生まれ育った同い年の男性3人。一人は農業、もう一人は薬局を営む。3人目は大手電力会社の社員で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場を地元に立地すべく画策している。他の二人も過疎化が進む地域の将来に希望を失い、誘致に協力する。  本音では処分場受け入れに不安を抱いていた農業青年が離農し、社員の口利きで電力会社に入社。人が変わったように処分場建設を強引に進め、政界にも進出する。一方、元々の電力社員は会社の姿勢に疑問を持ち、脱サラ就農して反対派に転じる。結末も衝撃的だが、気弱な農業青年が怪物じみたキャラクタ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「農業と農の分離」と「農業の社会化」という流れ

 市民・消費者の農業に対する関心が具体的な行動レベルへと移行しつつあることを感じる。市民農園や体験農園にとどまらず、最近では市民・消費者がグループをつくって農場を共同で管理するコミュニティガーデンが増えている。また都市農業の持続と農地の保全を可能にしていくため援農を組織化しているところもあり、農福連携も広がりつつある。さらには都市のビルの屋上の農園化も珍しくなくなってきた。これらを地産地消が後押しする。  このように都市部での市民・消費者の農業参画が進行する一方で、農村部の担い手不足は深刻で、今般の穀物相場の高騰等の環境変化で食料安全保障が揺らぎ、食料自給率の向上が叫ばれながらも、肝心の担い...

〈行友弥の食農再論〉義務教育は無償

 学校給食や施設内食堂の事業を全国展開していた「ホーユー」(本社・広島市)が今月初めに営業を停止し、22都府県の百数十施設(学校以外の事業所も含む)に影響が広がった。「食材費や人件費が高騰したが、価格転嫁が難しかった」と会社側は説明し、裁判所に自己破産を申請する方向だという。コロナ禍による受注減や同業他社との価格競争も背景らしい。  帝国データバンクが今月8日に発表した調査結果によると、昨年度の利益動向が判明した全国の給食業者374社中127社が赤字だった。前年度より減益になったケースを含め、全体の6割超で業績が悪化していた。  ホーユーの受注先は学校給食法が適用されない高校などが中心だっ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉もう手遅れか?!

 山口県の東部、瀬戸内海側で農業を営むKさんに、確認してもらいたい原稿があってメールをしたところ、電話がかかってきた。用件を済ませたところで、近況について話を伺ったのであるが、話は小1時間に及び、あらためて現場の状況にはきわめて深刻なものがあることを痛感させられた。  Kさんは米と野菜を少量多品種で栽培する中規模農家である。まずは猛暑が凄まじいことから始まり、台風による長雨に見舞われたことも重なって、野菜は根腐れをおこして一挙にやられてしまったという。米は早場米地帯でもあり収穫を始めたそうだが、まったく儲からない。採算抜きで、とにかくご先祖様が作ってきた田んぼを荒らすわけにはいかないことから...

〈行友弥の食農再論〉優等生の憂うつ

 家族の事情で6月下旬から北海道函館市の実家にいる。4月上旬からの約1カ月間も滞在したが、今回違うのは「鶏卵が買えるようになった」ことだ。4月ごろは入手が困難だった。スーパーの従業員に聞くと「入荷量が少なく、開店後あっという間に売り切れてしまう」と申し訳なさそうに言われた。  もちろん背景は鳥インフルエンザの感染拡大と飼料価格の高騰で、全国共通の現象だ。しかし、北海道では千歳市の農場で3月下旬から4月上旬に鳥インフルが発生し、道内で飼育される採卵鶏の約2割にあたる計120万羽が殺処分されたことが大きかった。  感染の終息を受け5月には鶏と卵の搬出制限が解除され、品薄は少し緩和された。しかし...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「農あるまちづくり講座」で〝真〟の准組合員づくり

 本コーナーの6月5日号で書いたように、本年3月に世田谷区で「農あるまちづくり講座IN世田谷」を開講したが、先の6月27日に無事に終了した。月2回、第二、第四火曜日の午後7時から8時半まで、消費者・市民を対象に農業やまちづくりに関係した講義を行い、残った時間で意見交換等を行ってきた。  定員20名に対し、申し込み締切りを間近にして、あっという間に20名を超え、あわてて募集を締め切った時点で参加者が29名になってしまったことに象徴されるように、本講座に対する消費者・市民のニーズには想定以上のものがあり、またきわめて熱心に受講いただいた。先に本講座を開いた西東京市では、リタイアした世代を対象に時...

〈行友弥の食農再論〉子どもたちの命綱

 今では全国7000ヵ所以上に広がった子ども食堂。その第1号とされる東京・大田区の「だんだん」が2012年にオープンしたのは、歯科衛生士のかたわら有機野菜などの販売を手掛ける近藤博子さんが、一人の小学校教諭に聞いた話がきっかけだった。その話とは「ひとり親のお母さんが心の病を抱え、学校給食以外は1日にバナナ1本しか食べられない児童がいる」というものだ。  この話は子どもの貧困の実態に加え、給食の重要性も示している。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年3月に始まった全国一斉休校では、給食を頼みの綱とする多くの家庭が窮地に陥った。特に、日中も家にいる子の世話のため仕事に出られなくなったひと...

〈蔦谷栄一の異見私見〉直面する問題への対応に終始した中間とりまとめ

 昨年の10月から食料・農業・農村基本法の見直しに向けて、農政審議会の中におかれた検証部会で議論が積み重ねられてきた。5月29日の検証部会でその中間とりまとめが決定され、6月2日には政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部会合で追認された。これで実質的に食料・農業・農村政策の新たな展開方向は決定し、今後は2024年の通常国会に向けての基本法改正案の検討作業の本格化とともに、適正な価格形成のための仕組み、スマート農業振興、不測時の政府体制についての法制化がすすめられることになる。  基本法であげられていた、①食料の安定供給の確保、②農業の有する多面的機能の発揮、③農業の持続的な発展、④その基...

〈行友弥の食農再論〉基本法見直しの「新しさ」

 食料・農業・農村基本法の見直し論議が急ピッチで進んでいる。先月29日には農林水産省の検証部会が中間とりまとめを野村哲郎農相に提出し、それを受けて岸田文雄首相を本部長とする食料安定供給・農林水産業基盤強化本部が今月2日に「新たな展開方向」を決定。年度内に施策の工程表も示されるという。  公表された文書を概観すると、現行基本法にはない新しい理念が目を引く。食料安全保障に多くの記述を割いているのは予想通りだが、その中で「平時からの国民一人一人の食料安全保障」をうたった点は率直に評価したい。  当欄でも再三指摘してきたが、国全体の食料自給率が上がっても十分な量と質の食料にアクセスできない生活困窮...

〈蔦谷栄一の異見私見〉小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク

 この5月に久しぶりに鹿児島に足を運んできた。労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会のセンター事業団九州沖縄事業本部が霧島市で開催した「第1回小農・森林ワーカーズ全国展開推進研修会(農業講座)in九州沖縄」への参加が目的だ。3日間の研修会で実質1日だけの参加ではあったが、これまでその存在を知るのみで実態・実情がよくは見えなかったワーカーズコープの小農・森林プロジェクトの活動を肌で感じることができた。  ワーカーズコープは3.11の災害復興の柱としてFEC自給圏づくりを宣言し、その具体的な取組みとして小農・森林プロジェクトを発足させている。FEC自給圏構想は経済評論家・内橋克人氏が提起したも...

〈行友弥の食農再論〉老いる人、老いる街

 一人暮らしをしていた母が入院したため、4月上旬から1カ月ほど里帰りした。故郷を離れて44年。こんなに長く実家で過ごしたのは初めてだが、地域の変容ぶりを実感した。かつて買い物をした近所の商店はすべて廃業しており、食料品や日用品は少し離れたスーパーやドラッグストアで買うしかない。比較的近くにコンビニがあるのが救いだった。  長い距離を歩けない母は、生協の宅配サービスを利用していた。実家の冷蔵庫をのぞくと、冷凍食品やレトルト食品がたくさんあった。揚げ物など高カロリーの食品が多い。それを90歳の母が一人で食べている姿を想像すると、胸が痛んだ。  街を走る宅配トラックを頻繁に見た。人口減少と高齢化...

〈蔦谷栄一の異見私見〉協同組合間連携で「農あるまちづくり講座」

 世田谷区で「農あるまちづくり講座IN世田谷」を開講中だ。3月から6月まで、第二、第四火曜日の午後7時から8時半まで、消費者・市民を対象に農業やまちづくりに関係した講義を行い、残った時間で質疑や意見交換を行っている。  主催は都市農業研究会。川崎平右衛門顕彰会とワーカーズコープ連合会東京中央事業本部が共催。世田谷区とJA東京中央、JA世田谷目黒が後援している。江戸時代中期に武蔵野新田開発を協同の力を発揮させることによって成功に導いた立役者が府中出身で名主の川崎平右衛門。新田開発が行われた地を移動しながら毎年フェスタを開催しているのが川崎平右衛門顕彰会だ。  一昨年11月、小平市で開かれたフ...

〈行友弥の食農再論〉コンビニおにぎりから考える

 ある大学で非常勤講師を務めているが、講義で毎年「コンビニおにぎり」の話をする。おにぎり1個に使われる米の量を45gとして、農家が受け取る米代金は10円強で、諸経費を差し引いた農家の手取り(家族労働費)は3円程度。農林水産省の統計に基づいた乱暴な計算だが、大きくは違わないだろう。  学生の多くはショックを受けるようだ。講義後に提出する感想文に「もうコンビニおにぎりは食べない」と書いた子もいる。そういう時は「食べていいんだよ。農家にとってはコンビニも大事な売り先なんだから」と説明する。  「流通・加工業者が暴利をむさぼっているわけではない」とも話す。いつでも手軽に食べられる利便性を消費者に提...

〈蔦谷栄一の異見私見〉みどり法で欠落した「自然循環機能」

 食料・農業・農村基本法の見直し(以下「基本法」)の動きが急だ。食料安全保障とあわせてみどりの食料システム戦略(以下「みどり戦略」)への対応も大きな焦点となっているが、あらためてみどりの食料システム法(以下「みどり法」)を確認してみて、基本法との本質的な差異が存在することに暗澹たる思いを強くしている。  みどり戦略では、ご承知のように2050年までに目指す姿として有機農業の取組面積割合を25%(100万ha)に拡大すること等が掲げられている。「生産力向上と持続性の両立」によりこれを実現するとしているが、取組みは30年代に本格化し、40年代に急伸するカーブを想定しており、イノベーションに大きく...

〈行友弥の食農再論〉寝た子を起こす

 消費者庁が10日、風評被害に関する今年1月時点の調査結果を公表した。福島第1原発事故を受けて10年前から行っている調査で、大都市圏と被災地の消費者約5000人が対象だ。今回「放射性物質を理由に購入をためらう」食品の産地として「福島」と答えた人の割合は5.8%で、調査開始以来最低になった。  喜ばしいが、気になる傾向もある。食品の検査体制を「知らない」とする消費者が増えていることだ。第1回(13年2月)は22.4%だったが、今回は63%。福島県では現在もすべての県産品で放射性物質の検査が行われているが、それを知らぬまま食べている人が多いことになる。  実は、福島県産品の購入をためらう人が最...

〈蔦谷栄一の異見私見〉地域特産品「信州人蔘」を協同組合で守る

 JAは地域に深く根差した存在であり、地域と一体となっての活動展開を本来とする。しかしながらそれが当然とはいえ、これにともない困難を避けられないことも多く、言うべくして容易ではない。その中にはJAに置かれた部会の扱いが含まれるケースもある。部会はJAと一体的に活動していくことが求められるものの、就業規定や給与規定等のJAの運営ルールで一体化が難しく、また税務問題も絡んで部会の運営継続そのものが困難となるケースも少なくない。こうした中で、〝協同組合内協同〟とでも言うべく事業協同組合として独立させながら、部会活動を実質継続させ、そのうえでJAと連携・一体化させての取組みによって活路を見出そうとのト...

〈行友弥の食農再論〉「じゅうねん」を過ぎても

 畑に近づくと、さわやかな香りが鼻をうった。昨年10月、福島県飯舘村でエゴマの収穫作業を手伝った時のことだ。  エゴマはシソ科の植物で、その葉は青ジソと見分けが難しい。似たような芳香も放つ。健康に良い不飽和脂肪酸が豊富に含まれ、福島では「食べれば10年長生きできる」という意味で「じゅうねん」と呼ばれることは、以前も当欄で書いただろうか。  集まったのは同村南部の大久保・外内(よそうち)行政区の住民でつくる一般社団法人「いいたて結い農園」のメンバーと、その知人ら計20人程度。筆者も代表理事の長正増夫さんと数年前に知り合った縁で、いわき市に住む元同僚を誘い前年に続き参加した。  機械(除草用...

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