日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉基本法見直しの「新しさ」

2023年6月25日

 食料・農業・農村基本法の見直し論議が急ピッチで進んでいる。先月29日には農林水産省の検証部会が中間とりまとめを野村哲郎農相に提出し、それを受けて岸田文雄首相を本部長とする食料安定供給・農林水産業基盤強化本部が今月2日に「新たな展開方向」を決定。年度内に施策の工程表も示されるという。

 公表された文書を概観すると、現行基本法にはない新しい理念が目を引く。食料安全保障に多くの記述を割いているのは予想通りだが、その中で「平時からの国民一人一人の食料安全保障」をうたった点は率直に評価したい。

 当欄でも再三指摘してきたが、国全体の食料自給率が上がっても十分な量と質の食料にアクセスできない生活困窮者や社会的弱者(いわゆる買い物難民など)が広くいる状況では、真の食料安保(国連などの言うフード・セキュリティー)が達成されているとは言い難い。労働時間の規制強化に伴うトラックドライバーの不足問題(2024年問題)にまで触れたところに危機感がにじむ。フードバンクや子ども食堂の意義に言及した点は画期的だ。

 農業の担い手を巡って「多様な農業人材の育成・確保」が盛り込まれた点も妥当だと思う。農村振興の部分では「農福連携」や「関係人口」、「農村RMO(地域運営組織)」などのキーワードも登場した。現在の食料・農業・農村基本計画が掲げる「地域政策の総合化」を基本法に取り込む方向だとしたら好ましい。

 「多様な人材」については検証部会で議論が分かれた。財務省出身の委員は「兼業農家は農業政策の軸にはなり得ない」と述べたという。補助金などの対象を絞り込みたい財政当局の論理だろうが「兼業農家=堕農」という古い偏見に縛られていないか。別の仕事で生計を立てながら農業も営む「半農半X」「多業・複業」の農家は、むしろ低い政策コストで農業生産を支えてくれる存在だ。人口減少・超高齢化時代の頼もしい「助っ人」と捉えるべきだろう。

 何より大切なのは、これらの理念が国民全体に共有されることだ。衆院解散・総選挙が近いとの観測も強まっているが、単なる「選挙公約」に終わらないことを願う。

(農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2023年6月25日号掲載

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