日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク

2023年6月5日

 この5月に久しぶりに鹿児島に足を運んできた。労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会のセンター事業団九州沖縄事業本部が霧島市で開催した「第1回小農・森林ワーカーズ全国展開推進研修会(農業講座)in九州沖縄」への参加が目的だ。3日間の研修会で実質1日だけの参加ではあったが、これまでその存在を知るのみで実態・実情がよくは見えなかったワーカーズコープの小農・森林プロジェクトの活動を肌で感じることができた。

 ワーカーズコープは3.11の災害復興の柱としてFEC自給圏づくりを宣言し、その具体的な取組みとして小農・森林プロジェクトを発足させている。FEC自給圏構想は経済評論家・内橋克人氏が提起したもので、FECのFはFood(食料)、EはEnergy(エネルギー)、CはCare(福祉・介護)であり、人間が生きていくにあたって不可欠な基礎的物資やサービスについては極力自給していこうという運動である。2011年以降、協同労働によって農的な活動、森林にかかる取組みを開始し、これを拡げてきたが、20年には九州エリアにあるワーカーズコープの全事業所で「小農活動」に取り組むようになった。この間、18年に国連が家族経営等小規模農家の価値と権利を明記した「小農権利宣言」を行い、その協同組合の支援呼びかけへの呼応も踏まえて、20年11月に「小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク」を立ち上げた。そして同年12月に労働者協同組合法が成立し、22年10月には同法が施行されたことから、満を持してその第1回の研修会が開催されたものである。

 小農・森林ワーカーズ全国ネットワークの目的は3つの政策課題の実現にあるとしており、その第一に食料自給体制の確立(仲間・組合員の自給。家族、隣人、友人、地域の自給。そして日本の自給。)、第二に完全就労の実現(あらゆる人々の就労機会の創出。労働の喜びと大自然の生命力につつまれて人々が復活し、輝きを取り戻す。)、第三に地域共同体の再構築(小農運動と協同労働の結合は、小農の価値をさらに発展させるとともに、コミュニティ(共同体)の再生を促進する。)をあげる。そして「この運動は、社会の根本をひっくり返す、そして〝人間の本質〟を取り戻す運動であり、日本版『緑の大地計画』」であるとする。

 すでに子ども食堂での自給の取組み、組合員へのお米一俵の分配、製材や加工の展開、林福連携、「森のようちえん」等々と取組みは広がりつつある。

 霧島市での第1回研修会の座学の講師は顧問でもある元広島県農協中央会専務の黒木義昭氏が受け持ち、また元福岡県農協中央会専務の本村公則氏も顧問として参加するなど、OBではあるが実質的に協同組合間連携も起動して大きな牽引力となっている。

 前回の本欄で記したように、別途、ワーカーズコープと一緒に「都市農業研究会」を立ち上げ、「農あるまちづくり講座」を西東京市、世田谷区で開始し、市民・消費者の農業参画を促す活動を展開している。この都市農業研究会での活動と小農・森林ワーカーズの活動とを一体化させて、是非とも首都圏での流域自給圏づくりを目指していきたいと考えている。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2023年6月5日号掲載

keyboard_arrow_left トップへ戻る