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〈蔦谷栄一の異見私見〉みどり法で欠落した「自然循環機能」

2023年4月5日

 食料・農業・農村基本法の見直し(以下「基本法」)の動きが急だ。食料安全保障とあわせてみどりの食料システム戦略(以下「みどり戦略」)への対応も大きな焦点となっているが、あらためてみどりの食料システム法(以下「みどり法」)を確認してみて、基本法との本質的な差異が存在することに暗澹たる思いを強くしている。

 みどり戦略では、ご承知のように2050年までに目指す姿として有機農業の取組面積割合を25%(100万ha)に拡大すること等が掲げられている。「生産力向上と持続性の両立」によりこれを実現するとしているが、取組みは30年代に本格化し、40年代に急伸するカーブを想定しており、イノベーションに大きく依存する形となっている。

 その具体的取組みとして、①高い生産性と両立する持続的生産体系への転換、②機械の電化・水素化等、資材のグリーン化、➂地球にやさしいスーパー品種等の開発・普及、④農地・森林・海洋への炭素の長期・大量貯蔵、⑤労働安全性・労働生産性の向上と生産者のすそ野の拡大、等があげられている。そしてその期待される取組・技術として、スマート技術によるピンポイント農薬散布、次世代総合的病虫害管理、土壌・育成データに基づく施肥管理、エリートツリー等の開発・普及等があげられている。ここではゲノム編集がスマート技術等とともにイノベーションの柱として位置づけられている。

 みどり法第3条の基本理念では「環境と調和のとれた食料システムは、気候の変動、生物の多様性の低下等、食料システムを取り巻く環境が変化する中で、将来にわたり農林漁業及び食品産業の持続的発展並びに国民に対する食料の安定供給の確保を図るためには、農林水産物等の生産等各段階において環境への負荷の低減に取り組むことが重要であることを踏まえ、環境と調和のとれた食料システムに対する農林漁業者、食品産業の事業者、消費者その他の食料システムの関係者の理解の下に、これらの者が連携することにより、その確立が図られなければならない。」とされている。ここでは「環境と調和」「環境への負荷の低減」が書き込まれているにとどまり、基本法の第4条、第32条、さらには有機農業推進法の第3条に明記された「自然循環機能」すなわち「生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能」には触れられていない。有機農業の拡大をうたいながらも、遺伝子操作技術を排除する有機農業の原理と相反する中身を包含する。

 みどり戦略の基本として置かれるべきはまさに「自然循環機能」であると考えるが、イノベーションの柱とするゲノム編集は、この自然循環機能を脅かしかねない。基本法見直しの前に問われるべきはみどり法が持つ基本理念の自然観・哲学である。みどり法は本来、基本法の「自然循環機能」を共有し、これをベースとしてみどり戦略の内容を具体化していくべきものではないか。みどり戦略を基本法見直しに反映させる以前の問題として、基本法とみどり法との理念に食い違いはないのか確認が欠かせない、と考える。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2023年4月5日号掲載

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