消費者庁が10日、風評被害に関する今年1月時点の調査結果を公表した。福島第1原発事故を受けて10年前から行っている調査で、大都市圏と被災地の消費者約5000人が対象だ。今回「放射性物質を理由に購入をためらう」食品の産地として「福島」と答えた人の割合は5.8%で、調査開始以来最低になった。
喜ばしいが、気になる傾向もある。食品の検査体制を「知らない」とする消費者が増えていることだ。第1回(13年2月)は22.4%だったが、今回は63%。福島県では現在もすべての県産品で放射性物質の検査が行われているが、それを知らぬまま食べている人が多いことになる。
実は、福島県産品の購入をためらう人が最も多かったのは第1回ではなく、第4回(14年8月)の19.6%だった。半年前より4.3ポイントもはね上がったのは、人気グルメ漫画で福島を訪れた主人公が鼻血を出すなどの表現が、国会審議や報道で取り上げられたことがきっかけとされる。「風評被害をあおる」と批判した国会質問が、かえって寝た子を起こす形になった。
風評被害軽減の背景が客観的な根拠に基づく理性的判断ではなく、単なる風化(忘却や関心の薄れ)だとしたら、寝た子はまた起きる。今夏までに予定される福島第1原発の処理水海洋放出が、そのきっかけになるかも知れない。
処理水は汚染水から大半の放射性物質を取り除いたものだが、トリチウム(水素の放射性同位体)が残る。「十分に薄める」「通常の原発からも放出されている」と説明する政府や東京電力に対し、全国漁業協同組合連合会(全漁連)や福島県の農漁業団体は風評被害の再燃を懸念して強く反対している。
昨年、東京大学が海外で行ったアンケート調査では、海洋放出が行われた場合に福島県産食品に「危険」を感じる人は韓国・中国で9割前後に上る。日本産食品全体に対しても6、7割が同じ認識で、全国の農林水産物輸出に影響が及ぶ可能性も十分ある。
海洋放出はさまざまな選択肢から「コストの低さ」で選ばれたが、そのツケを払わされるのは全国の漁業者や農業者だ。まだ遅くない。政府に再検討を求めたい。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2023年3月25日号掲載