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〈蔦谷栄一の異見私見〉検証が必要な野菜の栄養価低下

2023年12月8日

 以前から指摘がなされ、気になっていた一つが野菜の栄養価の低下である。科学技術庁から日本食品標準成分表が発表されており、5年ごととも言われるものの概ね不定期に改定が行われている。この食品成分表で野菜可食部分の100g当たりの栄養成分量が示されている。これにより1963年、1982年、2020年栄養成分含有量の推移を見てみると、カルシウムの場合、ほうれんそうで1963年98mgであったものが、1982年55mg、2020年69mg。だいこんで同じく190mg、30mg、23mg。かぼちゃで44mg、17mg、22mgとなっている。またビタミンCの場合、ほうれんそうで100mg、65mg、19mg。だいこんで90mg、15mg、11mg。かぼちゃで20mg、15mg、43mgとなっている。

 若干のばらつきはあるものの、概して数値は低下傾向にあり、この半世紀の間に同じ野菜とはいっても中身は大きく異なっていることになる。言ってみれば昔の野菜の何倍もの量を食べなければ同じだけの栄養を摂取することはできなくなってしまっていることになる。

 目下、第4次食育基本計画の一環として、健康寿命の延伸を目指す「健康日本21(第二次)」が展開されているが、ここで1日当たりの野菜摂取量を現状の平均280gから2025年度までに350g以上にすることが打ち出されている。このためご飯に野菜、肉、魚などを組み合わせ、1日に5~6皿を目安に食べることをすすめている。そして野菜を多く食べる効果として、野菜はビタミンやミネラル、食物繊維を多く含んでおり、脳卒中や心臓病、がん等にかかる確率が低下するとしている。そしてここでは現状からして350g以上の野菜が必要であるとしているが、野菜の栄養成分含有量が過去のようにもっと高い数値であれば野菜の摂取量は少なくて済み、経済的負担も軽減されることになる。

 この野菜の栄養低下の原因については、分析に用いた試料が「それぞれの時点において、一般に入手できるものが選定」されており、分析方法が変化してきている、あるいは最も栄養価の高い旬中心の生産・出荷から通年での生産・出荷への変化にともなう計測のタイミングの問題がある、さらには流通している同じ野菜でも品種が変化してきている等から、そもそも年次を越えて横並び比較すること自体が不適当であるとする見方がある。

 これに対し、品種改良により「風味」や「味気」のない野菜が増えていることが栄養レベルの低下と一体化している、あるいは化学肥料の使用によって、植物と土壌菌類との循環・相互作用が妨げられて地力が低下し、土壌から吸収される栄養分を減少させていることを指摘する論文等も出されている。まさに現代農業の本質にかかわる問題提起でもある。

 いずれにしても本問題は、食料安全保障の面からも健康の面からも極めて重要であり、あいまいなままに放置しておくことは許されない。野菜の栄養低下の推移・変化についてしっかりとした検証を行っていくことが求められる。国民が納得して食育に取り組んでいく前提・事実を明確にし整理したうえで、もろもろの対策を講じていくことが必要だ。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2023年12月8日号掲載

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