東京・阿佐ヶ谷の小劇場で「同郷同年」という演劇を見た。登場人物は谷間の町に生まれ育った同い年の男性3人。一人は農業、もう一人は薬局を営む。3人目は大手電力会社の社員で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場を地元に立地すべく画策している。他の二人も過疎化が進む地域の将来に希望を失い、誘致に協力する。
本音では処分場受け入れに不安を抱いていた農業青年が離農し、社員の口利きで電力会社に入社。人が変わったように処分場建設を強引に進め、政界にも進出する。一方、元々の電力社員は会社の姿勢に疑問を持ち、脱サラ就農して反対派に転じる。結末も衝撃的だが、気弱な農業青年が怪物じみたキャラクターに変わっていく姿が怖かった。
劇中、彼は「反撃」という言葉を唐突に口にする。「何に反撃する」と仲間に問われ、取りつかれたような表情で「おれにもよくわからん。でもする。反撃。すべてに」と語る。地域を衰退に追い込む何か。その弱みにつけ込む何か。あるいは地元の苦悩をよそに一方的な正義を振りかざす反原発派。そのすべてに彼は反撃したのか。
原作の戯曲を書いた胡桃沢伸さんは精神科医でもある。随筆によると、大学では工学部に進んだが、チェルノブイリ原発事故もあって原発や兵器を作る大手メーカーに進むのが嫌になり、医学部に転じた。進路変更を決心した時、目の前に広がっていた青い空が「自由」という言葉とともに心に刻まれているそうだ。
現実の「核のごみ」処分場選定では、北海道の寿都町と神恵内村で「文献調査」が終わろうとしている。本格的な「概要調査」への移行が次の焦点だ。一方、長崎県対馬市は比田勝尚喜市長が先月、文献調査を受け入れないと表明した。受け入れれば最大20億円の交付金が下りる。だが「風評被害が起きたら20億円では済まない」と判断した。
「同郷同年」の農業青年は、離農して「自由になれた」と話す。しかし、それは真の自由なのか。寿都町と神恵内村にも青い空と海が広がっているはずだ。本当に守るべきものは何か、「核のごみ」以外に守る方法はないのか、地元の人々にはよく考えて決めてほしい。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2023年10月25日号掲載