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〈行友弥の食農再論〉鳥はまたいで通っても

2023年11月25日

 かつて北海道の米は評価が低く「鳥もまたいで通る」「やっかいどう米」などと言われた。ただ、学生時代まで北海道で暮らし、基本的に地元の米を食べていた筆者は、特にまずいと思わなかった。先日、ある会合で会った新潟日報の記者にその話をしたら、彼は「実は新潟の米も昔は『鳥またぎ米』と呼ばれていました」と教えてくれた。県を挙げての努力とコシヒカリという品種の普及が新潟を「米王国」に押し上げたのだ。

 その王国が揺らいでいる。銘柄米の最高峰とされる新潟・魚沼コシが日本穀物検定協会の食味ランキングで最上位「特A」を逃したのは5年前(生産年は2017年)。28年ぶりの「転落」が県内外に波紋を広げた。翌年には特Aに返り咲いたが、その地位にかげりが見え始めた印象は否めない。一方、北海道産米は「ななつぼし」が昨年産まで13年連続で特Aになるなど、躍進を続けている。

 今年、新たな衝撃が新潟の米農業を襲った。農林水産省が先月末に発表した今年産米の検査結果(9月末時点)で新潟県の1等米比率は13.5%、コシヒカリに限れば3.6%と記録的な低水準だった。高温による生育障害で米粒が白く濁る「白未熟粒」が多発したためだ。一方の北海道産米(全品種)は86.4%だ。

 ただ、官能検査(実際に食べる)や理化学分析による食味ランキングと違い、1~3等などの等級は外形的な基準で決まる。猛暑で増えた白未熟粒も農水省は「水を少なめにして炊けばおいしく食べられる」と訴えている。等級と品質を混同してはいけない。

 実は30年近く前、産地・産年・品種を伏せた米を試食して順位付けする「目隠しテスト」を受けたことがある。筆者が付けた順位は普通のランキングとは全く逆で、農水省職員から「あなたは北海道出身では?」と言い当てられた。結局、自分の食べ慣れた味が一番口に合うということだ。

 農産物には多くのブランドがあり、格付けや等級もある。しかし、消費者が自分の舌で作物を選び、調理の工夫で欠点を補うといったことも大事だろう。そして、異常気象など生産者が直面する苦難にも時には思いを巡らせたいものだ。

(農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2023年11月25日号掲載

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