今では全国7000ヵ所以上に広がった子ども食堂。その第1号とされる東京・大田区の「だんだん」が2012年にオープンしたのは、歯科衛生士のかたわら有機野菜などの販売を手掛ける近藤博子さんが、一人の小学校教諭に聞いた話がきっかけだった。その話とは「ひとり親のお母さんが心の病を抱え、学校給食以外は1日にバナナ1本しか食べられない児童がいる」というものだ。
この話は子どもの貧困の実態に加え、給食の重要性も示している。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年3月に始まった全国一斉休校では、給食を頼みの綱とする多くの家庭が窮地に陥った。特に、日中も家にいる子の世話のため仕事に出られなくなったひとり親は食費増と収入減のダブルパンチを受けた。
コロナ禍が落ち着いて、今度は物価高が食卓を揺さぶっている。学校給食も影響は免れない。文部科学省の調査によると、21年度の給食費は月平均で小学校が4477円、中学校が5121円。3年前の調査から、それぞれ3.1%と3.6%のアップだった。物価高騰が本格化した22年以降は、もっと大きな上昇率になるだろう。
藤原辰史・京都大准教授の「給食の歴史」によると、日本の学校給食は関東大震災、昭和恐慌、第2次世界大戦、戦後の食料難といった危機を経て発展し、いわゆる「欠食児童」を支えた。同時に、貧富の格差で子どもたちの間に分断が生じないよう、さまざまな工夫もされてきた。1980年代以降は新自由主義政策で合理化の波にさらされ、質的には劣化した部分もあるが、今も9割前後の小中学校が完全給食を実施していることは先人たちの努力のたまものだ。
一方で「義務教育なのに、なぜ給食は有償なのか」という根本的な問いが残っている。給食を無償で提供する自治体はごく一部にとどまっており、物価高を背景に無償化を求める市民運動が静岡市や宮城県大崎市など各地で高まっている。
政府も無償化へ向けた調査や課題整理に取り組むことを先月閣議決定した「こども未来戦略方針」に盛り込んだ。しかし、政府・与党内には財政上の理由や給食自体がない学校との「不公平感」を理由に慎重論も根強いという。給食無償化には、少子化対策としての効果も大いに期待できる。異次元の対策を掲げるなら、もう一歩踏み込んでもらいたい。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2023年7月25日号掲載