日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉憂い顔のジェンナー

 最近 テレビなどで「ワクチン」という言葉を聞かない日はないが、語源を調べたらラテン語で「牛」を意味する「vacca」だった。牛の搾乳をする人が牛痘という牛の病気にかかると、天然痘に感染しなくなる。そのことを知った18世紀の英国の医師ジェンナーが、種痘(天然痘の予防接種)を考案したことに由来するそうだ。  現在では、天然痘の免疫を作ったのは牛痘ウイルスではなく、偶然混入していた別のウイルスだったことが判明している。本来は馬の病気を起こすものだそうだが「ワクチニアウイルス」と命名された。  ジェンナーは種痘の特許を取らなかった。特許を取るとワクチンが高価になり、多くの人に恩恵がいきわたらなく...

〈蔦谷栄一の異見私見〉JA自己改革第二弾で地球温暖化抑制への取組み

 気候変動対策に対応しての農政見直しに向け、「みどりの食料システム戦略」の策定作業がすすめられ、この3月末にはその中間とりまとめが公表され、パブリックコメントを踏まえての修正を経て、5月の中旬にも決定される見通しだ。  「2050年までに目指す姿」として、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%(100万ha)に拡大、等のかなり思い切った目標が掲げられている。最終的には若干の微調整はあっても、大筋は既に固まったとみる。  4月21日には生産者を中心とする持続...

〈行友弥の食農再論〉この水は飲めません

 「飲んでもいいの?」。昨年9月26日に福島第1原発を視察した菅義偉首相は「処理水」のサンプルを見て尋ねた。案内役の東京電力関係者は「飲めます」と答えたが、首相は飲まなかったという(昨年11月3日付「朝日新聞デジタル」より)。  処理水とは、廃炉作業中の同原発に流れ込んだ雨水や地下水から放射性物質を除去したもの。セシウムやストロンチウムは取り除けてもトリチウム(三重水素)は残っている。同原発敷地内のタンクにため続けているが、あと2年ほどでタンクの置き場所がなくなるため、政府は13日、薄めて海に放出する方針を決めた。  海洋放出には地元福島だけでなく、全国の漁業関係者が反対している。その6日...

ワンフレーズ この人 ここで(20210415)

 「お金は価値を判断する手段であるが、私はお金というものは、社会に対する貢献の対価であり、他人からの感謝のしるしだと考えている。つまり、感謝のしるしがつながることによって、経済が回っている」と、学生を前に農林中央金庫の奥和登理事長は語る。「皆さんが従事する農林水産業は、人に幸せを届ける意義が十分にある。どうやって人に幸せを届けていくのか、自分の経営ビジョンを夢描いてほしい」と未来の農業経営者たちを激励した。(9日、日本農業経営大学校の入学式で)

〈蔦谷栄一の異見私見〉「みどりの食料システム戦略」を1丁目1番地に

 農林水産省は、昨年10月の菅総理による、2050年年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を受けて農政の見なおしをはかっており、その基本方針となる「みどりの食料システム戦略」を本年5月に決定すべく、策定作業を急いでいる。これに向けての中間とりまとめがこのほど公表された。すでに3月の5日には中間とりまとめの案が公表されたことから、「有機農業比率25%目標」等の見出しで、マスコミは大々的に農政の転換について報じてきた。  あらためて出された中間とりまとめの参考資料を見ると、みどりの食料システム戦略は「農林水産業・地域の活力創造プラン」を改訂してその中に位置づけられること...

〈行友弥の食農再論〉ヒバリの歌

 「うらうらに照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば」  万葉集で大伴家持が歌ったヒバリは春を告げる鳥の代表格だが、大都市近郊では見なくなった。営巣に適した農地や草むらが減ったからだ。  昨秋、福島県飯舘村でトルコギキョウなどを生産する高橋日出夫さんに取材した時、その鳥の話が出た。「(原発事故の避難指示が解かれ)村に戻って一番うれしかったことは?」と聞いたら「ヒバリがいたこと」という答えが返ってきたのだ。  避難する前、高橋さんの畑には毎年ヒバリが巣を作った。高橋さんはそこだけ収穫を控え、ヒナたちが巣立つのを見守った。除染作業で重機が走り回ったので、もう来ないだろうと思ったが、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉第一次産業が地球を救う

 今回の話は食料安全保障がテーマではない。気候変動対策としての温室効果ガスの排出抑制に、第一次産業、特に農業の変革によって積極的に貢献していこうという話である。  農水省と環境省は昨年10月、菅首相の国会での総理大臣所信表明演説に先立ち、農林水産業における2050年カーボンニュートラル達成に向けて連携を強化していくことで合意した。これを受けて環境省が「地域循環共生圏」の創造を展開していくのと併行して、農水省は「みどりの食料システム戦略」の策定を急ぐ。  みどりの食料システム戦略は、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬使用量(リスク換算)の削減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使...

〈行友弥の食農再論〉いのちの食べかた

 穀物の国際価格が歴史的水準まで上昇した2008年。飼料価格高騰に悩む養鶏業界を取材した。初めて養鶏場に足を踏み入れて驚いたことが二つある。一つは徹底した鳥インフルエンザ対策。車と靴の消毒に始まり、下着を含む衣類をすべて着替えた。小さな部屋で薬剤の噴霧を受け、専用の作業衣に帽子やマスクを身に付けて、やっと鶏舎内に立ち入ることが許された。  もう一つは鶏の密集度だ。正確には覚えていないが、4、5段に重ねられたケージ内に身動きできないほど詰め込まれていた。前年に女性を「産む機械」にたとえて批判を浴びた大臣がいたが、あれこそが「産む機械」だろう。いくら対策を取っても鳥インフルが瞬く間に広がるのは、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉協同活動の原点を体現する「やねだん」の取組

 必ずしも発行が定期化はされていないようであるが、元鹿児島県信連常務の八幡正則さんから、『怠れば廃る塾』塾報が発行の都度、メールに添付して送られてくる。塾報は二宮尊徳の言葉を解き明かしたもので、この1月15日に届いた塾報は第200号とある。八幡さんは二宮尊徳の研究家でもあり、鹿児島大学で長らく講義を重ねてもこられたが、仮に毎月塾報を発行したとしても16~17年を要することになる。その研鑽のご努力と尊徳翁に対する熱い思いには敬服するばかりで、200号の発行を心からお祝い申し上げたい。  八幡さん、そして二宮尊徳については、筆者の理解がもう少し深まるまで取り上げることはかなわないが、今回は塾報の...

〈行友弥の食農再論〉暗い谷の底から

 深い峡谷にいるようだった。10年前、東日本大震災に続く原発事故で計画停電になった東京都心の夜だ。高層ビルに区切られた漆黒の空に無数の星が瞬く。人工の光がなかった時代には当たり前だった星空が唐突に戻ってきた。不思議な感慨に襲われながら「この光景を忘れないようにしよう」と思った。  だが、忘れていた。思い出させたのは「震災10年」の節目ではなく、コロナ禍で再びもたらされた街の静けさだ。ただ、今は星が見えない。  震災直後には「きずな」が叫ばれた。「日本はチームだ」という言い方もあった。「滅亡」を思わせる被災地の惨状と、闇に沈む東京。小さな集落で肩を寄せ合って暮らした太古の人々のように、人知を...

ワンフレーズ この人 ここで(20210120)

 「今年のJA全国大会決議の中に、全JAで農福連携をやろうと高らかに謳っていただきたい」と語る皆川芳嗣元農水省事務次官(農中総研理事長)。「JA兵庫中央会にお願いして、JA地区内に就労継続支援事業所がいくつあるか等をまとめてもらった。農福に取り組む際の連携する相手はどのJAにも存在することが分かった。全国のどのJA地区内もそうであろう」と。「社会の中でなかなか解決できなかった課題に対し、農業だから、農村だからできることがいっぱいある。その手段や資源を農協は色々もっていると思う。その典型事例が農福連携であり、農協活動の重要な要素として取り入れてもらいたい」と、日本農福連携協会会長として、熱い思い...

〈蔦谷栄一の異見私見〉withコロナ時代が求める「地域社会農業」

 新しい年を迎えたが、2020年は欧米では年末にワクチン接種が開始されたとはいえ、一方で変異種が猛威を振るい始めるなど、コロナの影響は長期化・恒常化しそうな気配だ。暮らしや経済等への影響が一段と深刻の度を増し加えていくことが懸念されるが、こうした動きと併行して気候変動対策の流れが加速するとともに、我が国農業では米過剰の顕在化、農業経営体の減少等、構造的な問題が顕在化・深刻化した一年でもあった。  コロナについてはさまざまな論評が飛び交っているが、本質的には感染症対策として3密回避が絶対要件となる中で、都市化することによって発展してきた近代文明のあり方が問われているように受け止めている。土から...

〈行友弥の食農再論〉「よい仕事」をつくる

 筆者が新聞記者として最後に書いたのは労働者協同組合(ワーカーズコープ)に関する記事だった。毎日新聞夕刊の「人模様」欄で、当時の日本労働者協同組合連合会理事長、永戸祐三さんを紹介した。取材の経緯はよく覚えていないが、その年(2012年)が国際協同組合年だったことと、前年の東日本大震災が関係していたように思う。記事が掲載されたのは、現在の会社に転職した後の同年7月9日だった。  永戸さんは熱い人だった。東北の被災地におけるワーカーズの活動を説明し「今こそ我々の力が試されている。グローバル化とマネー資本主義で傷んだ社会を、市民が主人公になる社会に変革しなければ」と身を乗り出して語った。  恥ず...

ワンフレーズ この人 ここで(20201214)

 農村部の気象・気候について、「数kmで予報が違う、温度が違う。地形によっても(条件が)変わってくる。地形の状況等と合わせて、気象データを読み解けるようになれば、それは鬼に金棒だ」と(一社)アグリフューチャージャパンの牧秀宣副理事長(愛媛県農業法人協会会長、ジェイ・ウィングファーム代表取締役)は語る。「農家もAIだとかと言い始めた時に、(気象のデジタル化が)一緒に進めば、見えないものが見え始めると思う。見えてくれば、凄く力になる」「産業としての位置づけが出来てくると、次の世代が農業を見る目は変ってくるだろう」と展望した。(4日、気象ビジネス推進コンソーシアムと気象庁が主催のオンラインセミナーで...

〈蔦谷栄一の異見私見〉協同組合運動の変革を迫る労働者協同組合法の成立

 労働者協同組合法が12月4日に成立した。労働者協同組合の一つである「ワーカーズコープ」は、戦後の失業者対策事業に端を発し、1979年に失業者や中高年者の仕事づくりを目指す「中高年雇用福祉事業団」を結成。86年にこれを「労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」に改組したもので、実質30年以上かけて根拠法獲得の実現に至ったものだ。  労働者協同組合法によって実現しようとする「協同労働」は、①組合員が出資、②組合員の意見を反映、③組合員が組合の事業に従事、という三原則に基づいて運営される。すなわち働く人が自ら出資し、運営にも携わる。  これまで根拠法を持たないワーカーズコープは、企業組合やN...

ワンフレーズ この人 ここで(20201127)

 農林中央金庫の奥和登理事長は、全農と共に㈱ファミリーマートと㈱日清製粉グループに資本参加することについて、「ファミリーマートでは、国産の野菜をたくさん使って欲しい。日清製粉にも国産の小麦をたくさん使ってほしい、という大きな狙いがある」、「こういった取り組みが第3、第4とあれば、少しでも国産の食材を沢山使ってもらえる機会を広げられるし、生産者に売り上げという格好で戻っていく」と話す。そして、「海外依存の現状を、少しでも国内の自給力・供給力の強化に繋げられるのではないか。良い案件があれば、しっかりと対応していきたいし、またそういう案件を作っていきたい」と決意する。 (18日、2020年度半期決...

〈行友弥の食農再論〉飢餓と飽食

 コロナ禍で「食料危機」が深刻化している。海外の低開発国や紛争地だけでなく、国内でもだ。恵まれない子どもたちを支援するNPO「グッドネーバーズ・ジャパン」のアンケートで、母子家庭など「ひとり親」世帯の食を巡る苦境が浮かび上がった。  同団体が運営するフードバンクの利用者を対象とした今年9月の調査によると、親の41・9%、子の10・5%が「食事の量が減った」と回答。「回数が減った」も親の29・4%、子の5・8%に上る。一斉休校で学校給食がなかった5月より子どもは改善したが、その分だけ親が悪化した。給食の重要性とともに、子どもたちにひもじい思いをさせまいと親が我慢する構図も透けて見える。  厚...

〈蔦谷栄一の異見私見〉農水省と環境省の連携強化で新時代を切り拓け

 安倍政権から菅政権へとバトンタッチが行われたが、官房長官として安倍政権の全般を取り仕切ってきた菅氏の首相就任であり、基本政策は継続され、大きな変化は期待できないと思っていた。それが所信表明演説で、温暖化ガスの排出量を2050年に実質ゼロを表明したのには正直驚かされた。政府はこれまで「50年に80%削減」「脱炭素社会を今世紀後半の早期に実現」の方針を掲げており、「50年までに実質ゼロ」を打ち出し、さらにその前倒しを検討しているとされるEUは勿論のこと、習主席が今年9月の国連総会で60年までに実質ゼロを表明した中国に比べても消極的との批判は免れ得ないものであった。菅首相の本気度はこれからの政策の...

〈行友弥の食農再論〉「自助」の条件

 先月の当欄で、菅義偉首相がマキャベリの信奉者であることに触れたが、スマイルズの「自助論」を読むよう同僚議員に勧めたというエピソードも日本経済新聞で読んだ。「天は自ら助くる者を助く」という格言の出典である。地盤・看板(知名度)・カバン(資金)のどれ一つない立場から、自己の才覚と努力だけで一国の宰相に登り詰めた人らしい。  首相の言う「自助、共助、公助」という順序は一般論としては正しいと思う。まず自分で頑張り、無理なら周囲に助けを求め、最後は公的支援に頼る。個人の尊厳を重んじるリベラリズムの基本であり、地方自治の「補完性の原理」(大が小を補完する)にも通じる。その原理は欧州連合(EU)を基礎づ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「土中環境」も加味した流域治水を

 洪水が頻発し治水についての認識は高まりつつある。  記録的な豪雨が増加しており、新聞情報では、川で洪水が起きる一歩手前の氾濫危険水位を超えた川の数が、2014年は83であったものが、19年には403と5倍近くにまで増加しているという。  こうした状況・情勢を踏まえて注目されているのが「流域治水」という考え方である。  これまで治水の中心的役割を担ってきたのはダムと堤防であるが、ダムの貯水容量や堤防の高さは過去の降水量を基にしており、近年の豪雨への対応は難しくなってきているとされる。  流域治水には「危険な浸水想定区域」にある住宅等を安全なエリアに移転させることや、「災害危険区域」にあ...

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