「みどりの食料システム戦略」(以下「みどり戦略」)の決定にともない、有機農業への注目度が高まっている。みどり戦略では「2050年までに目指す姿」として、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%に拡大、等のいくつもの目標を掲げている。これに対しマスコミをはじめとする巷では「有機農業比率25%」が強調されることが多く、みどり戦略即有機農業推進との誤解も少なくない。
みどり戦略決定の背景には、カーボンニュートラルの動きに象徴される地球温暖化にともなう気候変動対策をめぐる国際情勢の大きな変化があり、あわせて生物多様性の喪失や窒素・リンの枯渇等をもたらしている環境負荷の増大や資源循環の喪失がある。すなわち文明化・近代化・都市化が進行する中で累積・累増してきた温室効果ガスの発生を抑制し、環境負荷の軽減をはかっていくことが地球的な最重要課題として浮上してきたわけで、このためわが国でもみどり戦略という形でその対策が打ち出されたものである。
そこで強調しておきたいのが、化学農薬・化学肥料の使用抑制は環境負荷軽減をねらいにするもので、いくつかの方策があり得る。そうした中で有機農業比率25%が象徴的に取り上げられているのであって、併行して減化学農薬・減化学肥料の取組も含意されていると見ておくことが欠かせない。この一つの取組として7月5日付けの本欄で「『エコ農業』によるみどり戦略取組で『国消国産』を」と題して、減化学農薬・減化学肥料によって有機農業を到達点としてステップアップをはかっていく「エコ農業」が持つ期待効果と必要性について強調した。これは頂上を目指す〝道〟は有機農業1本ではなく、いくつかあることを示すとともに、要は全体での環境負荷の軽減がねらいであり、面的な展開ができるかどうかが目標実現のカギを握っている。エコ農業によって減化学農薬・減化学肥料を推進してすそ野を広げ、そうした中でこそ有機農業も増加していくことになる、というのが要旨である。
ここで留意しておきたいのが、「『有機農業』とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」の理解についてである。化学農薬・化学肥料の使用を抑制すればいい、という発想に陥りがちであるが、食料・農業・農村基本法の第4条にあるとおり、そもそも農業は「自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつこれを促進する機能をいう)が維持増進」されることを基本とする。
中島紀一茨城大学名誉教授は有機農業技術の核心を「低投入・内部循環・自然共生」の3つに集約しておられるが、化学農薬・化学肥料の使用抑制につとめながらも、有機農業が持つ技術や考え方にも学びながら、環境負荷軽減に取り組んでいくことが真に持続的で〝豊かな〟日本農業の未来を拓くことになると考える。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2021年9月5日号掲載