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〈行友弥の食農再論〉偽りの「ふるさと支援」

2022年1月25日

 一見、全国各地の特産品を扱う通販サイトのようだが、そうではない。「控除上限額」や「ワンストップ特例制度」に関する説明がある。そう書けば、ピンとくる人がいるだろう。「ふるさと納税」の仲介サイトだ。

 ふるさと納税は厳密には納税ではなくて寄付である。住民税を納める自治体(住所地)とは別の自治体に寄付をすれば、その額から2000円を差し引いた額が住民税と所得税から控除される。控除額には年収や家族構成に応じた上限がある。本来は確定申告が必要だが、それを省略できるのが「ワンストップ特例」だ。

 要するに、寄付者は実質的に2000円を支払えば豪華な返礼品が手に入る。寄付をされた自治体は寄付額から返礼費用を除いた分を得る。ババを引くのは寄付者の納税先である住所地の自治体だ。特に、地方交付税の交付を受けていない大都市圏などの自治体は国からの補てんもなく、丸損になる。

 一時は返礼品競争が過熱し、規制が強化されたが、根本的な問題が残っている。この制度による税の「流失」はコロナ禍で支出が大きく増えた大都市圏の自治体財政を直撃し、将来的には住民サービスの削減につながりかねない。また、ふるさと納税の節税効果は多額の税金を納める富裕層を潤し、逆に住民税が課税されない低所得世帯には何の恩恵もない。コロナ禍の打撃は貧困層ほど大きいとされ、ふるさと納税が格差拡大に拍車をかける面も否めない。

 総務相や鳥取県知事を務めた片山善博・早稲田大学大学院教授ら、地方行財政の専門家の多くが早くから弊害を指摘してきた。大都市圏に偏った財源を地方に再分配することは重要な課題だが、それは税財政をめぐる国・地方の関係を見直すことで達成するのが王道だろう。

 そもそも「自分の郷里や愛着のある地域を応援する」という理念は共有されているのか。仲介サイトを見る限り、そうは思えない。返礼品を提供する地方の生産者も、本来の正当な価格で買ってくれる顧客を得ているわけではない。

 もちろん、大きな災害の被災地などに本当の善意から寄付をする人もいる。制度発足から14年。廃止が難しいなら、せめて返礼品を禁止してはどうか。

(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2022年1月25日号掲載

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