日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉未来からの警告

2021年11月25日

 最近、いろいろなものの値上がりが目立つ。小麦や大豆を原料とする食品、食材。燃料の価格も高騰し、施設園芸や漁業のコストが増している。農業資材では肥料・飼料も値上げが続き、ある新聞には「耐え忍ぶのみ」という酪農家の声が載っていた。

 日銀が発表した10月の国内企業物価指数(企業間の取引価格)は前年同月比8%。実に40年9カ月ぶりの上げ幅になった。消費者物価はまだ落ち着いているが、時間の問題かも知れない。個別に見れば食品やエネルギーが高くなっている。

 「デフレ脱却」と喜ぶ話ではない。所得と需要の増加が引っ張る「良い物価上昇」ではなく、供給の制約による「悪い物価上昇」の面が強いからだ。後者は消費を冷え込ませ、景気後退を招く。70年代のようなスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)を懸念する声もある。

 背景は複雑だ。新型コロナの影響を脱した中国などで消費が急回復する一方、人手不足などで物流が滞っている。産油国はコロナの再燃を恐れて原油の増産に慎重姿勢を崩さない。コロナ下で観光・イベント・外食などの対人サービスが減った分が、モノの消費に回ったという見方もある。

 日本国内に限れば、円安も一因だ。円の対ドル相場は2013年以降、アベノミクスと日銀の「異次元金融緩和」で大幅に下落。11月半ば時点では114円前後で、米国の金利上昇による日米の金利差拡大が円安に拍車をかけている。

 輸出産業に有利な円安は長らく「日本経済に追い風」とされてきた。しかし、農業を含む「ものづくり」が縮小し、エネルギーや食料をはじめ多くの物資を輸入に依存する現状では、国内物価を押し上げるデメリットの方が大きいのではないか。国民の暮らしは苦しくなり、サービス業などの内需型産業がコスト高に悩む。特にコロナ禍で困窮に陥った人々は「泣きっ面にハチ」だ。

 そもそも地域の産業を衰退させ、大量の温室効果ガス(二酸化炭素)を出しながら海外とモノをやり取りする経済、中央銀行がお金を垂れ流して株価や国家財政の膨張をささえる経済に、持続可能性はあるのだろうか。コロナに続くインフレの襲来は「未来からの警告」のようにも思えてくる。

(農中総研・特任研究員)

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