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〈蔦谷栄一の異見私見〉「エコ農業」によるみどり戦略取組で「国消国産」を

2021年7月5日

 5月12日に決定された「みどりの食料システム戦略」(以下「みどり戦略」)については、短時間での策定にともなう唐突感と同時に、有機農業の面積比率25%に代表されるようなハードルの高い目標設定への驚き、そして羅列された技術開発によるイノベーションに対する懐疑等が渦巻く。決定から一月以上が経過する中で、「できるのか」「誰がやるのか」から反応は徐々に「やるしかない」「何ができるのか」へと変わりつつある。

 みどり戦略は「生産力向上と持続性の両立」をねらいとするが、成長戦略のいっかんとして位置づけられていることもあって、過度なイノベーションへの期待、技術開発依存となっていることは否定しようもない。問題含みのみどり戦略ではあるが、気候変動や生物多様性の喪失、窒素・リンの枯渇等、〝地球の危機〟を回避していくためには、持続性確保に向けた本格的な取組を開始する好機としてこれを活かしていくべきと考える。

 そこで、有機面積比率25%とあわせて、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の50%低減、化学肥料の30%低減等の目標目指して取組みを進めていくにあたって不可欠な要件として、➀持続性についての概念整理、②指数化・計数化による見える化、➂現場の理解獲得と取組浸透、④消費者の理解・支援獲得、⑤有機農業推進法、持続農業法等の法体系・制度の見直し、⑥助成策の構築、⑦生産者・消費者・行政による日本版オーガニック会議の設置・開催、があげられる。そしてこれらの要件とあわせて必須であるのが「展開戦略」だ。

 これまで有機農業もそうであるが、環境保全型農業も広がりを持てなかった理由として、①集団意識の強い中では個人の取組に期待するだけでは広がりが限られてきた、②有機農業と環境保全型農業との葛藤があるとともに、政策的にも有機農業と環境保全型農業の推進が分化して展開してきた、の二つが大きく作用してきたように思われてならない。①をクリアしていくためには集団での取組みによる地域営農計画に落とし込んでいくことが必須であり、これはJAの役割発揮なしには困難である。そして➁については持続性確保・向上の途として、有機農業の拡大と環境にやさしい農業による取組レベルのボトムアップという2つの途があることを明確にしたうえで、地域の事情を踏まえていずれかを選択して取り組んでいくとともに、全体を一体的に推進していくという「展開戦略」が不可欠である。

 こうした前提のもとで提案したいのが、JAグループによる「エコ農業」への取組みである。減減栽培、特別栽培、有機農業を含めて「エコ農業」と総称してこれを推進していくもので、全体としては環境にやさしい農業に取組みながら地域特性も勘案して目標を定めながらボトムアップをはかっていく。一気での有機農業への取組みも勿論歓迎だ。

 要はみどり戦略の取組のカギを握るのはJAグループであり、もはや避けることの許されない気候変動対策や環境問題にJAグループが率先して取り組んでいくことが「国消国産」運動を支えることにもなる。全国各地で「エコ農業」推進の旗が振られることを期待したい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年7月5日号掲載

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