昨年5月に農林水産省はみどりの食料システム戦略(以下、「みどり戦略」)を決定したが、これを法制化すべくこの2月下旬にも法案を通常国会に提出する予定にしている。生産性の向上と持続性の両立をねらいに、2050年までを目標に農林水産業からのCO2ゼロエミッション化、化学農薬の使用量50%低減、化学肥料の使用量30%低減、有機農業の取組面積比率25%(100万ha)等を目指す。この超長期にわたるみどり戦略への着実な取組みを担保するところに法制化の意図はあるとされる。
法制化すること自体に異論はないが、法案化を目前にして違和感は拭えない、というのが率直な思いだ。みどり戦略は先に触れた目標のとおり、まさに日本農業の質の大転換を目指すものであるが、にもかかわらず農政審議会で議論されることもなく、法制化されようとしている。みどり戦略は昨年5月に決定されているが、ほぼ1年前の一昨年の4月からあらたな基本計画がスタートしている。農水省の説明では、基本計画スタート直後からみどり戦略策定についての検討を開始したとしているように、基本計画には間に合わなかった、十分には盛り込まれなかった環境問題への取組みを、みどり戦略という形で追加したという性格をも持つと理解している。すぐれて基本的な問題であり、農政審議会を通じての国民的議論を経て、みどり戦略を決定するなり、それを法案化するというのが話しの筋ではないか。
問題は、整斉と法案化に向けて事がすすめられつつある一方で、国会でも議論がほとんどなされておらず、みどり戦略の位置づけが明確化されていないとところにある。そもそもみどり戦略の背景にあるのは地球温暖化であり、気候変動対策の第一次産業版として期待されるものである。地球温暖化にともなう高温、豪雨、台風の強大化等にともなう高温障害、洪水や土砂崩れ等風水害の増加は免れないとの気候変動予測が背景にはある。この地球温暖化にともなっての最大問題は食料の安全保障である。気候変動対策として真っ先に問われなければならないのは、食料自給率37%(2020年、カロリーベース)という食料の過半を海外に依存している食料の生産需給構造である。温暖化、異常気象は地球レベルでの現象であり、多少のばらつきはあっても日本の不作の際には国際的にも不作となる可能性は高く輸入が滞る事態は必至だ。これまでの形式的に掲げられるだけの食料自給率目標を、全力をもって実現し、先行き自給を目指さなければならない情勢なのであり、みどり戦略は本来、食料安全保障と一体化して議論されてこそ、その位置づけは明確となる。
そしてこの食料安全保障を確立していくためにこそ、みどり戦略がねらいとする「持続性」が求められることになる。担い手の減少、そして農地の減少が続いているのに対して、みどり戦略はイノベーションを強調するだけで、持続性を獲得していくには程遠い内容となっている。法制化以上に、求められるのは国会や農政審議会等での国民的議論によるみどり戦略の位置づけの明確化ではないか。国民の納得を得ずしてみどり戦略の目標実現は難しい。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2022年2月5日号掲載