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〈蔦谷栄一の異見私見〉「環境調和型農業」で環境負荷軽減

2021年11月5日

 この10月29日に第29回JA全国大会が開かれ、「持続可能な農業・地域共生の未来づくり~不断の自己改革によるさらなる進化~」をスローガンとする大会議案を決議した。人口減少、高齢化、担い手不足に、米需給の緩和にともなう予約概算金の大幅低下やコロナ禍が加わり、農政面でもみどりの食料システム戦略(以下、「みどり戦略」)が打ち出されるなど、農業・農村の構造的見直しが避けられない中、JAグループが大会議案をつうじていかなる中長期ビジョンを打ち出すのか、大きな関心をもって待ち受けていたところである。

 議案では10年後の目指す姿として、①持続可能な農業の実現、②豊かで暮らしやすい地域共生社会の実現、➂協同組合としての役割発揮、を置く。そのうえで、この10年後を見通して重点的に取り組む5つの柱として、①持続可能な食料・農業基盤の確立、②持続可能な地域・組織・事業基盤の確立、➂不断の自己改革の実践を支える経営基盤の強化、④協同組合としての役割発揮を支える人づくり、⑤「食」「農」「地域」「JA」にかかる国民理解の醸成、をあげている。そのうえで3年間の取組実践方策が記述されている。

 取組実践方策の中で特に注目していたのが、みどり戦略へのJAグループの対応である。1.持続可能な食料・農業基盤の確立、の中で、(1)多様な農業者による地域農業の振興、(2)マーケットインにもとづく販売強化、に続いて(3)地域の実態に応じた持続可能な農業・農村の振興と政策の確立、が置かれている。その(3)の➀持続可能な農業生産の実現、として、ア、生産トータルコストの低減、に続いて、イ、みどりの食料システム戦略をふまえた環境調和型農業の推進、が掲げられ、4つのパラグラフが書き込まれている。はじめのパラグラフで「JAグループはみどりの食料システム戦略の実現に向けた新たな法的枠組みや政策支援等をふまえ、地方公共団体が作成するビジョン等との連携や消費者の理解醸成に向けた国民運動の展開など、行政・関係機関が一体となった環境調和型農業の推進に取り組みます。」と謳っている。これまでの環境問題についての消極的な姿勢を転換して、化学肥料・化学農薬の使用量削減や温室効果ガスの排出量の低減を図っていくため、有機農業をも含めた減農薬・減化学肥料栽培への取り組みを「環境調和型農業」と称し、これを推進していくことを宣言している。そしてこれに続くパラグラフで➀土壌診断にもとづく適正施肥や耕畜連携による堆肥を活用した土づくり等、技術のイノベーションというよりは既存技術を活用しながら取り組んでいくこと、②地域実態・実情に応じた弾力的な取組としていくこと、等の具体的な取組対応をあげている。

 これまで環境問題に対し〝眠れる獅子〟であったJAグループが、やっと目をさまし、歩き始めようとしているもので、これは〝第二のJA自己改革〟とも評価すべき画期的な出来事と言っていい。これによりみどり戦略への着実な取組をはかっていくための足場が構築されたとみることができる。まだスタートラインに立ったにすぎないが、その意義は大きい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年11月5日号掲載

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