日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉「激辛」の料理人

 安倍一強政治がついに終わり、菅新政権が発足した。安倍前首相の辞意表明まで菅氏は「自民党総裁選への出馬は全く考えていない」と否定し続けたが、実際は早くから「ポスト安倍」に布石を打っていた。多くのメディアがそう報じているが、岸田派・石破派を除く自民党の主要派閥が足並みをそろえた結果を見ても明らかだ。  横浜で記者をしていた22年前、まだ衆院1期目だった菅氏に選挙情勢などを聞いたことがある。取材対応は丁寧で、情報収集力の高さや分析の鋭さにも感服した。半面、自分の本音は見せず、常に人を「値踏み」しているような冷徹さも感じた。  本社経済部のデスク時代には、部下の総務省担当記者が愚痴をこぼしていた...

〈蔦谷栄一の異見私見〉無視できない農業からの温室効果ガス排出

 今年は「令和2年7月豪雨」と呼ばれるように九州や岐阜・長野で記録的な豪雨により大きな洪水被害を発生したが、長梅雨が終わってほっとできるかと思えば、今度は40℃に迫る〝危険な暑さ〟の連続。秋に入っての台風被害発生への懸念が募る。異常気象が恒常化するという以上に、〝異常〟の程度が加速しているのが何とも怖い。  地球温暖化の原因として二酸化炭素を中心とする温室効果ガスが着目され、産業革命、特に戦後の成長経済の中で石炭、石油、天然ガス等の化石燃料の使用増加が原因とされる。ところがデイビッド・ウォレス・ウェルズの『地球に住めなくなる日』では、化石燃料を燃やして大気中に放出された二酸化炭素の半分以上は...

〈行友弥の食農再論〉命を思う夏

 コロナ禍で今夏の帰省は断念したが、筆者の生まれ故郷は北海道函館市。例年なら夜景見物などの観光客でにぎわっているはずの函館山のふもとに、小さな石碑が建っている。第2次世界大戦中の「学徒援農」の記念碑だ。  日本の敗色が濃くなった1944年から翌年の終戦まで、食料増産のため約20万人の若者が北海道の農業地帯に送り込まれた。戦地へ出征した「学徒出陣」は大学生が中心だったが、援農は10代半ばの少年たち。軍需工場などで働いた「学徒勤労動員」の農業版である。  当時14歳だった父も、函館から十勝へ派遣された。地平線まで広がる畑で未明から日没まで続く作業に嫌気がさし、友人と2人で馬を盗んで逃げだした。...

〈蔦谷栄一の異見私見〉異常気象は行き過ぎた近代化・工業化への警鐘

 この7月には熊本を中心に宮崎、鹿児島で記録的な豪雨と洪水。間もなく豪雨は東に飛んで岐阜、長野で。さらに福岡や大分、広島でも発生し、甚大な被害をもたらした。しかも日本でのこうした非常事態発生に目が釘付けになっている間に、お隣の中国でも記録的大雨により長江流域で洪水が発生し、東京都の人口を上回る1500万人もが避難し、経済損失は何と1.3兆円に及ぶ見通しとの報道もある。異常気象は日本にとどまらず、地球規模で頻発しており、大雨、干ばつ、森林火災等が各地で発生している。  鬼頭昭雄『気候は変えられるか?』によれば、地球の気候の変動は、「大気・海洋・雪氷圏などからなる気候システム自体の内部変動による...

〈行友弥の食農再論〉グリーンリカバリー

 先日、ある講演会で残念な話を聞いた。新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされた人が農業現場へ働きに行ったが、その後で「あんなひどい仕事とは思わなかった。二度とやりたくない」と感想を漏らしたという。外国人技能実習生らが来られなくなり、人手不足に陥った農業を、休・廃業に追い込まれた業界の人々が支えれば一石二鳥だし、新規就農者を増やす呼び水にもなるのでは、と期待していたが、少し甘かったようだ。  こんなことでは、ますます農業が敬遠されてしまう可能性もある。それに、やはり技能実習生らは劣悪な条件で酷使される存在だったのか、と胸が痛む。  もちろん、実習生を手厚く処遇してきた農業者もおり、講演...

〈蔦谷栄一の異見私見〉期待したい「農林水産省環境政策の基本方針」の全面展開

 新たな食料・農業・農村基本計画がスタートした。基本構図は従来方針を踏襲しながら高齢化や人口減少の進行を踏まえて地域政策の展開を強化しようとしているように理解される。環境政策については、第3「食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策」の2「農業の持続的な発展に関する施策」の一番最後となる(8)で「気候変動への対応等への環境政策の推進」に取り上げられているように位置づけはきわめて弱い。  筆者が座長をつとめる「持続可能な農業を創る会」は、基本計画の抜本的見直しを求めて2月に提言をとりまとめ、農水省事務次官への提言・要請を行った経過がある。その提言の主となるのは、①持続可能な農業の...

〈行友弥の食農再論〉本当に必要な人へ

 二十数年前、記者として横浜に勤務していたころ、寿町を何度か訪ねた。かつては港で働く日雇い労働者たちが暮らした地域。東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と並ぶ「日本三大ドヤ街」の一つだ(ドヤは「宿」の隠語で、低料金で泊まれる簡易宿泊所のこと)。たまたま寿町の住人を支援する団体の幹部と飲み屋で知り合い、興味を抱いた。  昔は物騒な事件が多かったそうだが、意外に静かだった。その幹部は「もう、ここは労働者の街とは言えない。今は生活保護で暮らす高齢者や病人の方が多い」と教えてくれた。バブル崩壊後、日雇い仕事が激減したという。  他のドヤ街も同じらしい。先日、釜ヶ崎の現状を描いたNHKのテレビ番組を見た。段ボー...

〈蔦谷栄一の異見私見〉コロナで加速させたい田園回帰の流れ

 「田園回帰志向強く」「東京圏在住 半数『移住に関心』」「農業人気」は、先の5月24日付日本農業新聞の第1面真ん中に掲載された記事の見出しである。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県の在住者を対象に行ったアンケート調査の結果を報じた衝撃的記事だ。同本部が本年1月に、20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施したもので、全体の49.8%が1都3県以外での地方圏暮らしに関心があると回答している。しかも若い世代ほど移住の意向が強い傾向にあるとしている。あわせて「やりたい仕事」では、「農業・林業」が15.4%で最多となっており、「宿泊・飲食サービス」14....

〈行友弥の食農再論〉不要不急

 新型コロナウイルスが気付かせてくれた。人生がいかに「不要不急」の要素に満ちていたかを。しかし、それらを排した生活が何と味気ないものであるかを。  新型コロナウイルスで農業が受けた打撃はさまざまだ。深刻なのは、学校給食や外食などの売り先を失った酪農・畜産(特に和牛)、イベント・贈答・観光などの関連需要が急減した花き・果樹だ。もちろん、経済の低迷が続けば影響はあらゆる作目に及ぶ。消費者の低価格志向が強まり、高級ブランド品ほどダメージが大きくなりそうだ。  学校給食は別として、外食やイベントをターゲットとする高級牛肉や花は、しょせん「不要不急」の品目だったのか。農業は「ハレの日のぜいたく」では...

〈蔦谷栄一の異見私見〉新型コロナが問う “生命”への謙虚さ

 新型コロナウィルスは依然として猛威をふるっており、医療関係者の身を挺しての奮闘と、政府や自治体による緊急対策によって、かろうじてパンデミックに陥ることは回避されている。しかしながら予断を許さない状況がまだしばらくは続くことになりそうだ。安倍政権や政府による対策には批判も多いが、最悪の事態は回避されており、緊急対策という意味では、その努力は評価したい。しかしながら意識の大半を占めているのは経済問題であって、経済問題が深刻であり、経済が破綻しかねないぎりぎりのところまで追い込まれつつあることはそのとおりであるが、経済が回復すればいいという問題なのではまったくない。  新型コロナウィルスは未曽有...

〈行友弥の食農再論〉正しい種をまく

 「4月は残酷きわまる月だ」。新型コロナウイルスで出鼻をくじかれた新社会人らのニュースを見て、そんな言葉を思い出した。  英国の詩人エリオットの代表作「荒地」の冒頭の1行。心躍るはずの季節が「残酷」とは逆説的だが、新たな命の芽生えはさまざまな苦悩の始まりでもあるという意味か。いずれにせよ希望に胸を膨らませて第一歩を踏み出そうとした若者らに残酷すぎる春だ。  先月末に閣議決定された食料・農業・農村基本計画も新型コロナの悪影響に言及した。具体策には踏み込んでいないが、平時からリスクに備える必要性を指摘し、中長期的な課題として検討するという。  ここ数年の農政は「農業の成長産業化」を掲げ、輸出...

〈蔦谷栄一の異見私見〉新型コロナが垣間見せる新しい風景

 世界の新型コロナウィルス感染者数は93万人に及ぶ(4月2日午後4時現在)。当初は中国の武漢市の問題と楽観していたものが、湖北省、北京に広がり、そして韓国、日本、さらにはイタリアをはじめとして欧米、南半球へと拡散は急である。  日本でも感染が始まった当初は感染者数に対して死者数が少なく、アメリカで猛威を振るっているインフルエンザよりもましかと楽観していたが、イタリアでの死者数が中国を上回り、しかも致死率が10%前後と高いことが報道されるようになってから、これはただ事でなく、命が危険にさらされていることを実感。直近ではあっという間にアメリカが最大の感染国となるなど、その感染力の強さに戦々恐々と...

〈行友弥の食農再論〉努力の途中

 毎日新聞夕刊に連載されている森下裕美さんの4コマ漫画「ウチの場合は」は、かわいい絵柄と辛らつな批評精神のギャップが面白い。3月10日の回では、小学生のユウヤがこうつぶやく。「東日本大震災をきっかけに人間はすごく変わったと思ったんだけど、マスクやトイレットペーパーの買い占めや転売、外国人差別、なーんにもかわりゃしない」  親友で秀才の信一が答える。「人類が誕生したのがだいたい20万年前。人間はまだまだ努力の途中なんだよ。絶望したら進化できないよ」。ユウヤは救われたようにうなずく。  「いいこと言うなあ」と筆者も思ったが、ついペシミストの本性が頭をもたげ「20万年かけて人類は何を学んだのか。...

〈蔦谷栄一の異見私見〉二重の危機克服に不可欠な農政転換

 あらたな食料・農業・農村基本計画策定の議論も終盤にさしかかり、今月末には閣議決定される予定だ。農政審議会が議論の主戦場ということにはなるが、これと併行して農業団体、NPO等いくつもの団体から提言が行われてきた。そうした中の一つ、生産者・消費者・流通関係・研究者等が集まっての「持続可能な農業を創る会」に筆者も座長としてかかわって提言を行うと同時に、日本有機農業研究会、日本農業法人協会、日本生活協同組合連合会、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン等と合同し、各政党の農政担当議員と一堂に会して各提言の説明と意見交換の会を設けたところである。本欄を借りて、なぜ今、各団体がスクラムを組んでまで提言を...

〈行友弥の食農再論〉トリトンの告発

 子どものころ「海のトリトン」というテレビアニメが放映されていた。手塚治虫原作で、イルカに乗った少年トリトンが悪の「ポセイドン一族」と戦うストーリー。だが、作品のモチーフとなったギリシャ神話のトリトンは、海神ポセイドンの息子だという。  科学用語の「トリトン」は三重陽子(陽子1個と中性子2個でできた原子核)のことで、それを持つ水素の放射性同位体がトリチウム(三重水素)。このトリチウムを含む水が福島第1原発の敷地内にたまり続けている。原子炉の汚染水からセシウムやストロンチウムを除去しても、水と同じ性質のトリチウム水は残る。東京電力は22年夏ごろ貯蔵能力の限界に達するとしている。  政府は専門...

〈蔦谷栄一の異見私見〉家族農業継承の深刻なもう一つの実情

 国連による家族農業の10年がスタートして、2年目に入った。日本では行政や研究者の関心はもっぱら法人化にある。家族農業の世界では、近時、第三者継承への注目が高まっているが、家族農業の基本問題は小規模性による低収益構造にあるとされ、規模拡大による所得増大が推進される一方で、所得確保のために直接支払いが不可欠であると同時に、欧米に比較すると政策支援が大きく劣ることが強調されてきた。いずれにしても家族農業を継続していくカギは所得増大にある、との理解が“コモンセンス”化しているといっていい。  所得確保が経営継承の前提になることについて異論はないが、先日、果樹農家のH君からメールがあり、所得増大を中...

〈行友弥の食農再論〉「21世紀」はいつまで?

 英国の歴史家ホブズボームは「長い19世紀」と「短い20世紀」という時代区分を唱えた。前者はフランス革命の起きた1789年に始まり、後者は第1次世界大戦が勃発した1914年から冷戦終結の91年まで。世界史の潮流を踏まえた説得力のある説だと思う。  90年代前半は日本国内でも大きな変化があった。バブル崩壊で経済が長期低迷に陥り、成長力回復のための規制緩和など新自由主義的改革が加速した。農業でも91年発効の牛肉・オレンジ自由化が市場開放の口火を切り、93年末のウルグアイ・ラウンド(UR)実質合意に至った。これも、根底には自由貿易が経済成長を促すという経済理論がある。  UR農業合意が発効した9...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「持続可能な農業」という枠組みからの農業見直しを

 過ぐる一年を一言で凝縮すれば「加速する輸入自由化圧力の増大」ということに尽きよう。TPP11そしてEUとのFTAが発効し、最大の懸案であった日米交渉も8月の首脳会議で大枠合意して、この1月1日から発効した。日米交渉決着に際して政府は「共同声明に沿った結論が得られた」と強調する。しかしながら肝心の自動車と部品についての関税撤廃は先送りされる一方で、牛肉・豚肉関税は発効時からTPP国と同税率にする等、米国に一方的に旨味のある内容で押し切られたというのが実情だ。しかも農産品については再協議規定が設けられており、いつでも米国はエスカレートさせた要求を突き付けることができるように措置されるなど、日本の...

〈行友弥の食農再論〉複眼的な議論

 「近隣の集落はすべて消滅し、800人だった人口が20人に激減した。行事を手伝う人も減り、集落の維持が困難になった」  食料・農業・農村政策審議会のヒアリングで中国地方の農業者が答えた内容だ。「地方消滅」の実態だが、一方で同じ中国地方には都会から若い移住者が集まる地域もある。 地方の衰退は高度経済成長とともに始まった。旧農業基本法が制定された1961年ごろから団塊の世代の若者たちは「金の卵」として大都市圏に向かい、農山村はさびれた。集団移転などで消えていった山間集落も少なくない。  現在も若者の流出は続く。だが、都会へ出ても安定した所得や豊かな暮らしは約束されない。多くの若者は不安定な雇...

〈蔦谷栄一の異見私見〉親環境農業をリードするカンドン農協

 GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の失効は免れたものの、日韓関係は最悪の状況が続いている。こうした時ほど民間レベルでの交流が重要だ、との思いも手伝って、韓国の都市農業や協同組合を中心にヒアリングや現地調査に出かけてきた。  訪問先で最も興味をひかれた一つがソウル市にあるカンドン(江東)農協の親環境農業への取組である。親環境農業は有機栽培、無農薬栽培を対象とするが、1997年に親環境農業育成法を成立させて以降、当初、助成対象としていた低農薬栽培や転換期間中を対象から除外する等によってレベルアップをはかってきた。有機農業が占める農地面積割合(16年)は1.2%と日本の0.2%(認証ベース...

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