日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本の米が”危ない”!

2021年12月5日

 「もう米づくりはやめたい」という声があちこちから聞こえてくる。米の概算金は軒並み2、3割低下。主要銘柄でさえも1万円前後がせいぜい。これでは稲作経営はとうてい成り立たない、持続できない、という悲鳴であり叫びである。

 米価低下の要因としてコロナ禍による外食需要の減少が指摘されるが、ベースにあるのは食の多様化のいっそうの進展と人口減少である。

 米価低下がコロナ禍で増幅されていることは確かではあるが、これを一時的現象と見ることは許されない。むしろすぐれて構造的な問題であり、食の多様化を逆流させることは困難であるとともに、長期にわたっての人口減少が見込まれており、このままではさらなる米価の下落は必至である。

 こうした事態に対処すべく、11月19日、農水省は22年産の適正生産量を発表した。
 設定された適正生産量は675万トンと、21年産のそれ696万トンから21万トン少ない。これは3・0%の減産を求めるものであるが、21年産の生産量見込み701万トンと比較すると、3・7%もの減産になる。

 ただでさえ赤字経営のところへの減産は、売上の減少にそのまま跳ね返り、所得の大幅減少に直結する。「作れば作るほど赤字」を加速させることになるが、今後のさらなる人口減少を勘案すれば、このままでは稲作経営の先行きに展望はなく、「米づくりをやめたい」という気持ちが起きるのも当然である。

 ここで問題にしたいのが、現状、担い手の中枢をなしている団塊の世代が70代に入ったことである。まさにこれから10年程の間に、担い手の多くがリタイアすることは必至であるが、稲作経営が成立してこそバトンタッチをしようとするとともに、バトンタッチを受けようとする新たな担い手も出てこようというものである。

 稲作経営が成り立たない現状を、小手先だけの対処に終始して、構造的問題が看過されている感があり、わが国の食料安全保障の根幹は揺ぎつつあると言わざるを得ない。

 こうした事態は、農業を産業としてしかとらえることができずに、市場原理の徹底をひたすらに推し進めてきた自民党農政の当然の帰結でもある。

 こうした中で、地球温暖化から未来世代を守るために、本年5月には気候変動対策、カーボンニュートラルを実現すべくみどりの食料システム戦略が打ち出され、日本農業の質的転換に取り組むことを宣言したところだ。

 この質的転換とあわせて今求められるのは食料安全保障の確保だ。急速な地球温暖化で米をはじめとする農作物の生産不安定化を避けることは困難であるとともに、農産物輸出国の生産不安定化が重なる可能性も高く、食料自給率37%(カロリーベース)と輸入に大幅に依存したわが国食料需給構造の見直しは緊急の大課題だ。

 稲作をはじめとする農業経営の確立、そして新規就農者の確保をはかっていくためには、戸別所得補償の復活、さらにはベーシックインカムの導入等も含めて、抜本的・根本的な検討、議論が欠かせない。このための時間的な猶予はない。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年12月5日号掲載

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