日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉フードシフトはみどり戦略とセットで

2021年8月5日

 農水省は、7月20日、食料・農業・農村基本計画で提起した新たな国民運動として「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」(以下「フードシフト」)を始めることを発表した。

 国産農産物の消費拡大のために農業・農村への理解を広げていくことをねらいに、同日付けで公式ウェブサイトを開始した。地域で頑張る農家らの取組みの発信、農家・食品事業者・消費者からのアイデア募集を始めるとともに、秋以降はイベントの告知等も予定する。

 官民協働で農業・農村の取組みや魅力を発信することによって、食や農のあり方について議論もしながら、消費者と生産者の距離を近づけ、国産農産物の消費拡大、国産農産物を選択する行動変容を促していくことを意図する。

 これはこれで大変にけっこうなことであり、大いにすすめていくべきものと考えるが、せっかくの国民運動であり、このフードシフトと別途、先の5月12日に決定された「みどりの食料システム戦略」(以下「みどり戦略」)と連結せずに、切り離して展開されることが口惜しくてならない。

 一方で「2050年までに目指す姿」として、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%に拡大、等のかなり思い切った目標がみどり戦略では掲げられている。現在の有機農業の面積比率0・5%に対して目標が25%に象徴されるように、ハードルはきわめて高い。

 EUはガットウルグアイラウンドでの合意に基づき92年に共通農業政策(CAP)の改革を行い、有機農業をはじめとする環境にやさしい農業への取組みを推進してきた。その積み重ねの結果が「Farm to Fork」での2030年の有機農業面積比率25%という目標設定につながっている。

 これに対して、形だけの環境政策・地域政策にとどまり、〝失われた30年〟という機会損失を発生してきたわが国農政が、国際情勢の変化に方向転換を余儀なくされて打ち出したのがみどり戦略と理解する。みどり戦略はハードルが高いだけに、消費者・流通業者等の理解・応援が不可欠であり、まさに国民運動的に取り組んでいくことなくして目標の実現は到底困難である。

 フードシフトの国民運動とみどり戦略を一体化させて打ち出すことはできなかったのか。みどり戦略が決定して時間も少なく具体的な政策展開はこれから検討する状況にあることは理解できなくもないが、骨太に大きな方向性として、フードシフトを支えるものとして、みどり戦略によって環境負荷低減を目指す日本農業としていくことをセットにして打ち出していく強い思いが欲しい。

 もはや環境負荷低減を無視した日本農業では消費者と生産者との距離を縮めることは難しいことをみどり戦略は宣言したのではないか。農政が単眼的、部分最適な方策しか展開できないなら、ウェブサイトを使って生産者と消費者とが本音でやりとりをしながら実態を作り上げていく手がまだ残されている。生産者と消費者による情報発信・交流が、日本農業の流れをリードするようになることを期待したい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年8月5日号掲載

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