今月3日、静岡県熱海市で発生した土石流の映像に息をのんだ。3年前の西日本豪雨や北海道胆振東部地震で起きた土砂災害もひどかったが、今回は斜面そのものが崩れたというより、大量の土が谷の上から押し寄せてきたので「山津波」という表現がふさわしい。12日現在で死者10人、行方不明者は18人と伝えられている。誠にいたましいことである。
報道によると、上流には大量の「盛り土」があったという。それが主因かどうかはわからないが、少なくとも被害を大きくした要因ではあるようだ。つまり、人災の要素が大きい。
盛り土が始まったのは10年以上前で、目的は「造成」だったらしい。しかし、実際には行政に届け出た面積や量をかなり超える土が持ち込まれ、行政側もそれを把握しながら原状回復を命じるなどの強い措置は取らなかった。土地そのものが転売され、責任があいまいにされた面もある。土には木くずやタイルなどの廃材が混じっていたとの情報があり、造成に名を借りた建設残土や産業廃棄物の不法投棄だった疑いがぬぐえない。
「盛り土」という言葉に、思い出した光景がある。6年前、茨城県古河市で取材した建設残土の不法投棄現場。後継者のいない農家から農地を取得した「農業生産法人」が、実際は土の捨て場所に使っていた。地元農業委員の案内で現場を訪ねると、数mに盛り上がった地面に雑草が生い茂っていた。
あふれた土が周囲の農業用水路を埋め、発生する害虫が他の田畑にも被害を及ぼす。農業委員会は改善を指導したが、業者は地元有力者との関係をほのめかし、従わなかった。「既成事実を作られたら終わりだ。警察に相談しても『似たような話はたくさんあり、いちいち捜査していたらきりがない』と取り合ってくれない」と、農業委員は吐き捨てた。
残土の出どころは首都圏の工事現場だった可能性が高い。東京五輪誘致を契機とした都心の再開発ブームが背景かも知れない。熱海の「盛り土」はもっと以前からだが、構図は似たようなものだろう。原発の立地と同様、東京の繁栄のツケを回されるのは、いつも地方だ。踏みつけられてきた「土」が反乱を起こす。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2021年7月25日号掲載