日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉「じゅうねん」がつなぐ未来

 福島では「じゅうねん」と呼ぶ。最近、健康食品として注目されるエゴマのことだ。血液をサラサラにするなどの効果があるα―リノレン酸を豊富に含み、福島での呼び名も「10年長生きする」に由来するという。  そのエゴマが、原発事故からの農業復興を担う。川内村、浪江町、飯舘村などで生産が広がっていることは知ってていたが、調理や試食も体験する機会に恵まれた。食と農と地域をつなぐ活動を行う東京のNPO法人「コミュニティスクール(CS)まちデザイン」の一員として、今月初めに飯舘村を訪問したのだ。  村内の各所を回ったが、メーンは2日目の住民との交流会。女性はエゴマを使った料理を作り、男性はうどんを打ちエゴ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉映画「ワーカーズ 被災地に起つ」の自主上映の輪を広げよう

 あなたは映画「ワーカーズ 被災地に起つ」について小耳にはさんだことはないだろうか。これは日本労働者協同組合連合会、通称ワーカーズコープが、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北を舞台に、復興に向けて地域で協働しながら奮闘する人々の姿を追ったドキュメンタリーで、厚生労働省の推薦映画にもなっている。昨年10月に東京のポレポレ東中野で劇場公開されたのを皮切りに、全国各地で自主上映の運動が展開されつつある。  その流れに呼応して、この10月17日、小金井市にある宮地楽器大ホールでその上映会が開催された。これは翌18日に行われた川崎平右衛門研究会の前夜祭的位置づけも兼ねて上映されたもので、川崎平右衛門...

〈行友弥の食農再論〉おお、運命の女神よ

 6年前、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」という曲がヒットした。失恋しかけた友人(自分?)を「未来はそんな悪くないよ」と励ます歌詞。他愛もない恋の歌と言えばそれまでだが、東日本大震災や福島原発事故の被災者への応援歌にも聞こえた。  「フォーチュン」は英語で「運命」や「幸運」を意味する。語源はローマ神話の豊穣の女神フォルトゥーナだ。豊かな実りは常に約束されているわけではなく、不作の年も必ずある。だから「運命」の意味も持たされたのだろう。  「おお、フォルトゥーナ!」の叫びで始まる合唱曲がある。南ドイツの修道院から発見された古い詩歌集に20世紀の音楽家カール・オルフが曲を付けた「カル...

〈蔦谷栄一の異見私見〉永続的経済成長という「おとぎ話」への決別

 この9月下旬にニューヨークの国連本部で開かれた気候変動問題に関するサミットは「気候行動サミット」と称する。国連事務総長は「美しい演説ではなく具体的行動を」と呼び掛けており、その思いをもろに出した名称が掲げられた。  これに日本からは小泉環境大臣が出席したが、22日の関連会合に出席した際、記者団に「スピード感を持って、できることは全部やる。日本は本気だということを伝えるべく動きたい」と抱負を述べ、また記者会見では「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈だ。気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と語ったことが報じられている。国連事務総長の思いとは真逆の、魂...

台風19号と水田

 今回の台風19号では、千曲川、阿武隈川などの大河川をはじめ各地の多く河川で氾濫、決壊、或はダムの緊急放流などの事態が発生し、大きな被害が発生した。広い範囲での短時間の降雨量のもの凄さに驚く。一か月前の台風15号で千葉県を中心に主に強烈な風による甚大かつ復旧の捗らない被害を身近に体感した関東地方では、人々の心配が募り、19号の来襲予報に対応して、大きなペットボトル入りの水や、電池、ランタン、養生テープなどといった防災対応グッズがスーパー等の棚から消える、いわば台風特需のような購買行動が見られた。それだけでなく、この地に独特な事態を目の当たりにした。  台風19号が12日の夜半に通り過ぎた利根...

〈行友弥の食農再論〉「もろこし」はややこしい

 トウモロコシは、ややこしい。郷里の北海道では「トウキビ」と呼ぶ。漢字で書けば「唐黍」になるが「唐黍」は「モロコシ」とも読む。だがトウモロコシは「唐唐黍」ではなく「玉蜀黍」と書く。トウモロコシとモロコシは同じイネ科だが、別の植物だ。古語の もろこし」は異国を意味するから、いずれにせよ外来作物に違いない。  モロコシは英語で「ソルガム」、中国語では「コーリャン」。中国を代表する蒸留酒「白酒」(バイチュウ)の原料だが、最近はトウモロコシも使うという。トウモロコシは米国が世界最大の生産国で、バーボン・ウイスキーの主原料だから、酒については「米中合作」が進んでいることになる。  経済成長を遂げた中...

〈蔦谷栄一の異見私見〉永続的経済成長という「おとぎ話」への決別

 この9月下旬にニューヨークの国連本部で開かれた気候変動問題に関するサミットは「気候行動サミット」と称する。国連事務総長は「美しい演説ではなく具体的行動を」と呼び掛けており、その思いをもろに出した名称が掲げられた。  これに日本からは小泉環境大臣が出席したが、22日の関連会合に出席した際、記者団に「スピード感を持って、できることは全部やる。日本は本気だということを伝えるべく動きたい」と抱負を述べ、また記者会見では「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈だ。気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と語ったことが報じられている。国連事務総長の思いとは真逆の、魂...

〈蔦谷栄一の異見私見〉おれたちの直売所

 家内の実家は長野県伊那市で、95歳になる母親がまだそこそこに元気にしている。できるだけ顔を見せるために、毎月、車を走らせている。母親に会う楽しみが基本ではあるが、そのついでに顔を出すことにしているいくつかの一つが、伊那市の郊外、ますみが丘にある産直市場グリーンファームで、都度、会長の小林史麿さんと小一時間は話し込んでくる。  グリーンファームは随分と知られるようになってはきたが、手短に紹介しておけば、農免道路沿いの飼料畑の中に、1994年にオープンした農産物直売所で、個人経営による「見なし法人」である。200平方mの売り場からスタートし、その後必要に応じて増設を繰り返してきた。本年1月には...

〈行友弥の食農再論〉嫌なニュース

 暑苦しい季節に嫌なニュースが続く。昨年度の食料自給率(カロリーベース)が37%と、93年に並ぶ史上最低になった。天候不順による小麦や大豆の不作が原因というが、米の作況指数が74だったあの年とはレベルが全く違う。農業者の高齢化と後継者不足で生産基盤の崩壊が進んでいることは明らかだ。  昨年は49歳以下の新規就農者が5年ぶりに2万人を割り込んだ。多くの産業が人手不足に悩む中、若い人材の奪い合いが起きている。自給率は仮想的な数字であり、天候など偶発的要因にも左右されるが、農地・人・技術という生産要素を総合した自給力の確保が課題だろう。  国連の気候変動政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化の影...

〈蔦谷栄一の異見私見〉小さいことに価値を置く令和に

 平成から令和へと元号が変わったが、振り返ってみれば平成はTPPやFTAに象徴されるようにグローバル化の進展が顕著であり、これを必然化させたのが利益追求と組織化・システム化・規模拡大であろう。組織化・システム化・規模拡大は市場化・自由化の流れの中で膨張を続け、大きくなることによって利益と競争力を確保すると同時に競合相手を倒したり吸収・統合してきた。こうしているうちに国内でのマーケットは成熟してしまい、一方で生産能力は過剰化して、海外にマーケットを求めるしかなくなったというのがグローバル化の本質と考える。この間、競争に勝ち抜いていくためにコスト低減が至上命題となり、低廉な労働力を求めて生産拠点の...

〈行友弥の食農再論〉『農福連携』が消える日まで

 静岡県浜松市で野菜の施設園芸を営む「京丸園」の鈴木厚志社長は困惑した。規模拡大のため従業員を募集したら、障害のある子とそのお母さんが訪ねてきたからだ。「障害者に農作業は無理」と考えて断ったが、母親は「給料はいらないから働かせて」と頼み込んだ。1週間だけ農作業体験として受け入れたが「給料はいらないから」という言葉が鈴木さんの頭をしばらく離れなかった。  福祉施設に勤める知人に聞くと「もし就職できなければ、その子は福祉施設に行く。それは面倒をみてもらう立場になるということだ」と言われた。鈴木さんは「仕事はお金のためにするもの」と考えていた自分を恥じ、農業を福祉に生かすことを考え始めた。  障...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「家族農業の10年」で変えていくために

 「家族農業の10年」がスタートしたが、昨年12月の国連総会で決議された「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」とともに、家族農業と小農についての議論が広がりつつある。  「農家・市民・地域・運動・NGO・研究者などの交流・連携を深める『場』として、2019年1月に設置」された“国連小農宣言・家族農業10年連絡会”によって、参議院議員会館と衆議院第二議員会館で既に2回にわたって院内集会が開催されたのをはじめ、各地でさまざまな動きが展開されているが、正直なところまだ議論は空回りし本格的な始動には至っていないと言わざるを得ない。その主因は、国連で小農権利宣言を採択するに...

〈行友弥の食農再論〉教訓を語り継ぐ

 今月8日、福島県二本松市の東和地区に「里山文化あぶくま研究所」が設立された。研究所といっても学術研究が目的ではない。里山の生活文化を継承し、福島原発事故で傷付いた農と地域社会の再生を目指す取り組みだ。  設立の会には多彩な顔ぶれが集まった。地元農家や研究者、学生、ジャーナリストら数十人が地域の現状と未来を熱っぽく語り合った。  しかし、真の主役は2年前に63歳で亡くなった新潟大の野中昌法教授だった。野中さんは原発事故後の福島へ通い続け、有機農業の土づくりによる放射能汚染の克服に力を尽くした。その成果は著書「農と言える日本人」に詳しい。  事故直後は被災地を単なる「事例」と見て、一方的な...

〈蔦谷栄一の異見私見〉有機農業停滞の不思議

 今、世界では有機農業が拡大している。ヨーロッパは有機農業の先進地であり、耕地面積に占める有機農業比率はスウェーデン18.8%、イタリア15.4%(2017年。以下同じ)をはじめとして高く、ヨーロッパの中では有機農業比率が低く特異な存在でもあったフランスも、AMAP(フランス版CSA(Community Supported Agriculture=地域で支える農業))の普及・拡大にともなって有機農業比率は急伸しており、6.3%になっている。ヨーロッパでも平地を中心に農薬・化学肥料を使用しての大農機具や高度施設利用型の大規模経営によるさらなる農業の近代化が進行しているのも事実である。これに対して...

〈行友弥の食農再論〉虹の彼方へ

 年齢を重ねるうちに知人の訃報に接することが増えてきたが、今回はこたえた。農林年金理事長の松岡公明さんだ。先月28日、登山中の事故で亡くなった。享年62。あまりに若すぎた。  全中で米政策を担当されていたころ、駆け出し農政記者として取材したのが最初の出会いだ。豪放らい落な人柄にひかれたが、理想家肌で一本気なところも魅力だった。通夜で再会した全中の元幹部は「熱皿漢でね。手綱を引くのが難しい部下だった」と懐かしそうに振り返った。さもありなん、と思う。  当時、松岡さんがまとめた全中の「RICE戦略」は、ウルグアイ・ラウンド合意に基づく米市場開放と、それを受けた食糧管理制度廃止(民間流通主体の食...

〈蔦谷栄一の異見私見〉協同組合内協同でアクティブ・メンバーシップを後押し

 先の全国JA大会での決議は、「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合としての総合力発揮」を目指す姿とし、(1)農業者の所得増大・農業生産の拡大、(2)地域の活性化、(3)持続可能な経営基盤の確立・強化、を重点課題とする。このために組合員のアクティブ・メンバーシップの確立が必要であり、協同組合としての役割発揮が欠かせないとしている。JA批判に対抗してJA改革が進められているが、「協同組合としての役割発揮」ができるか、今、協同組合の真価が問われているということができる。  このアクティブ・メンバーシップの確立のために、「組合員のニーズにあった事業、活動、組合員組織活動等の取組み」の展開を求め...

〈行友弥の食農再論〉平成とコンビニ

 平成が終わる。元号が替わって世界が一変するわけではないが、来し方行く末を考えるきっかけにはなる。この30年、食と農の世界を大きく変えた要素の一つとして「コンビニエンスストア」に着目したい。  コンビニは平成期に急拡大した。日本フランチャイズチェーン協会によると、店舗数は1988(昭和63)年に1万店を超え、89年(平成元年)には1万6466店になった。昨年末時点は5万5743店と30年間で5倍に増えた。売上高も08年に百貨店を抜き、スーパーに肉薄している。  スーパーも同じ時期、規制緩和やモータリゼーションを背景に郊外への大型店進出が進んだ。中心市街地の商店街は「シャッター通り」になり、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉JAグループ京都の准組合員問題対策

 先ごろ、ある新聞記事に思わず目が釘付けとなってしまった。1面のトップ記事ではなく、少し後ろの5面だったかと思うが、京都府内のJAが「正・准の組合員」区分をなくし、すべて「組合員」の呼称に統一するために組合員資格の見直しを進めているとの記事である(3月20日付日本農業新聞)。すでにこの3月までに府内4JAが定款変更のための臨時総代会を開いてこれを可決しているという。この先陣を切ったのがJA京都で、5万人を超える組合員宅を個別に訪問し、組合員の資格確認調査を進めており、「農業経営や農業従事者、用水路や溝の清掃、草刈り、農道の整備などの農業関連作業、市民農園・家庭菜園などでの農産物の栽培、農業塾な...

〈行友弥の食農再論〉福島は語る

 東京・新宿などで上映中の記録映画「福島は語る」(土井敏邦監督)を見た。インタビューだけで構成された3時間近い長尺ものだ。途中で眠ってしまうかも――と案じながら見たが、全く無用な心配だった。福島原発事故でかけがえのないものを失った人々が絞り出す言葉の一つ一つが胸に突き刺さり、身じろぎもできなかった。  双葉町から避難し、会津地方の小学校に転勤した女性教諭。3月11日に全校一斉で行われる「黙とう」が耐えられず、被災地の児童を連れて学校を出た。 「何する?」「アイス食べたい!」「よし、先生がおごるぞ!」。アイスを食べながら話すうちに、心の傷があらわになる。放射能や賠償金を巡るいじめ、望郷の思い...

〈蔦谷栄一の異見私見〉キーワードは「協同」「おもしろい農業」

 JA全国大会議案が決議されるが、平成最後という一時代の区切りでのJA大会であるだけでなく、TPP11と日欧EPAの発効によって、農産物貿易自由化の大津波が到来し始めた時でもある。そして人口は減少に転じ、高齢化の進行によって、先行きさらなる米消費量減少が避けられず、あらためて水田をはじめとする農地の粗放的利用への取組みが必至とされる情勢にあるなど、時代は抜本的に変わりつつある。  JA大会では、(1)持続可能な農業の実現、(2)豊かで暮らしやすい地域社会の実現、(3)協同組合としての役割発揮、を目指す姿として、(1)では、農業所得の増大、農業生産の拡大、(2)では連携による地域活性化への貢献...

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