日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉グリーンリカバリー

2020年7月25日

 先日、ある講演会で残念な話を聞いた。新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされた人が農業現場へ働きに行ったが、その後で「あんなひどい仕事とは思わなかった。二度とやりたくない」と感想を漏らしたという。外国人技能実習生らが来られなくなり、人手不足に陥った農業を、休・廃業に追い込まれた業界の人々が支えれば一石二鳥だし、新規就農者を増やす呼び水にもなるのでは、と期待していたが、少し甘かったようだ。
 こんなことでは、ますます農業が敬遠されてしまう可能性もある。それに、やはり技能実習生らは劣悪な条件で酷使される存在だったのか、と胸が痛む。
 もちろん、実習生を手厚く処遇してきた農業者もおり、講演者が述べたのは一部の例外的なケースだったと思いたい。だが「仕事と私生活の区別がはっきりしない」といった農業側の常識は、一般世間とのずれが大きい。この事態を自らの働き方を見直すきっかけにしてほしい。そういう気付きをもたらす意味でも、異業種からの農業参入は重要だといえる。
 最近「グリーンリカバリー」という言葉をよく聞く。コロナ禍で経済活動が抑制された結果、温室効果ガスの排出や大気汚染が減り、環境面にはプラスになっている。衛星画像でも、北京の空を覆っていたスモッグがほとんど消えた。ポスト・コロナを「元の状態に戻す」と考えるのではなく、それを契機に持続可能な世界を目指せ–というのがグリーンリカバリーだ。それは、もう一つの「グリーン」(農業)にも当てはまる気がする。
 テレワークの普及で地方に人口が還流するという予測もある。大都市圏への人口集中を続けてきた「この国のかたち」が変わるかも知れない。「新しい生活様式」が「半農半X」のようなライフスタイルに発展すれば、農業現場にも追い風になるだろう。
 –と夢想は広がるものの、やはり先走ってはいけない。仮に人口移動の方向が逆転するとしても、地方へ移住する側、それを受け入れる側、お互いの理解と努力が必要だ。これまでの都市と農村の関係を振り返り、過疎・過密から持続可能な社会への転換をじっくり展望したい。
(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2020年7月25日号掲載

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