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〈行友弥の食農再論〉「じゅうねん」がつなぐ未来

2019年12月6日

 福島では「じゅうねん」と呼ぶ。最近、健康食品として注目されるエゴマのことだ。血液をサラサラにするなどの効果があるα―リノレン酸を豊富に含み、福島での呼び名も「10年長生きする」に由来するという。
 そのエゴマが、原発事故からの農業復興を担う。川内村、浪江町、飯舘村などで生産が広がっていることは知ってていたが、調理や試食も体験する機会に恵まれた。食と農と地域をつなぐ活動を行う東京のNPO法人「コミュニティスクール(CS)まちデザイン」の一員として、今月初めに飯舘村を訪問したのだ。
 村内の各所を回ったが、メーンは2日目の住民との交流会。女性はエゴマを使った料理を作り、男性はうどんを打ちエゴマをすった。約60人が分け隔てなく一緒に汗をかき、あちこちから笑いの輪が広がる。一昨年の春まで6年間も全住民が避難していた土地であることを忘れそうな盛り上がりだった。
 福島大学食農学類の石井秀樹准教授の仲介で、大久保・外内(よそうち)行政区の長正増夫区長に交流を提案したのは今夏。農業現場を見せてもらい、話を聞けば十分だと思っていた。それが地域ぐるみの体験交流に発展したのは、地元側の意向だ。にぎやかに見えて、実際は住民の多くがまだ帰還せず避難先で生活している。長正さんは交流会を住民が集まるきっかけにしたいと考えた。
 飯舘村では来春、国から出ていた農地の保全管理(草刈りや耕うん)の経費が打ち切られる。除染が済みきれいになった水田でも、稲の切り株が残っているところは少ない。「1年後、この田んぼはどうなっているのだろう」と心配になる。
 被災地では、農家が減ったことを前提に農業の省力化を図るプロジェクトも国や県によって進められている。だが、飯舘村は高齢者らの「生きがい農業」など多様な選択肢を認め、支援する方針だ。人手のかかる小規模な農業の方が、外から訪れる「関係人口」も含め大勢の人々がかかわれる。
 あと1年余で原発事故から10年。国の復興政策は一区切りを迎えるが、地域再生の歩みはまだ始まったばかりだ。
 縄文時代から栽培されてきたという「じゅうねん」が地域ににぎわいを取り戻してくれると信じたい。
(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2019年11月25日号掲載

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