日本農業の振興と農業経営の安定、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉コロナで加速させたい田園回帰の流れ

2020年6月5日

 「田園回帰志向強く」「東京圏在住 半数『移住に関心』」「農業人気」は、先の5月24日付日本農業新聞の第1面真ん中に掲載された記事の見出しである。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県の在住者を対象に行ったアンケート調査の結果を報じた衝撃的記事だ。同本部が本年1月に、20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施したもので、全体の49.8%が1都3県以外での地方圏暮らしに関心があると回答している。しかも若い世代ほど移住の意向が強い傾向にあるとしている。あわせて「やりたい仕事」では、「農業・林業」が15.4%で最多となっており、「宿泊・飲食サービス」14.9%、「サービス業」13.3%、「医療・福祉」12.5%と続く。現場を歩く度に若い世代での田園回帰現象を実感はしていたものの、これが大きな流れとなりつつあることを示す調査結果であり、しかもこれがコロナ問題が本格化する前に行われた調査であるところにうねりの強さを感じさせられる。
 日本では都市に住む人口割合が約8割を占めており、農村から都市への人口移動の流れは首都圏への一極集中へと突き進んでいる。この起動力となってきたのは、便利さ、快適さ、効率性の追求であり、多くの人間が集まることによってビジネス機会の増大とGDPの成長・拡大をもたらし、併行して個を優先した分断社会を前提にした都市文化が形成されてきた。これを可能にしていくために周辺環境の人為的コントロールが徹底され、自然の変化に対応して生きるのではなく、自然を支配しコントロールすることによって人間が主役となってきた。まさに都市化は近代化・文明化と一体となって進展してきたといえる。ところがそうした都市のあり方、生活に疑問を持つ人たちが確実に増えていることを示す。
 コロナは、人が集中することによって形成される都市にとって、三密という環境は必然であり、感染症拡大を避けられない宿命を抱えていることを明らかにした。同時にコロナ対策としてのテレワークやテレビ会議等の浸透によって地方や農村にいても仕事の概ねは可能であることが実証された。コロナは、現代社会が抱える基本問題をあぶり出すとともに、人知では変えられなかったものを、強制的に転換していくだけの潜在力を有するようだ。
 担い手を求めている農地は多く、空き時間や週末を利用しての自給的農業も大歓迎だ。物々交換や相互扶助、お祭りも含めた自然・風土・農村文化もかろうじて残っており、子育ての環境ははるかに農村のほうがいい。そして何よりも百姓仕事は人との接触ははるかに少なく、また自らの裁量で切り回していくことが可能だ。中長期の時間をかけながらも都市から農村への人口還流、田園回帰をはかっていくことがコロナの根本対策ともなる。
 コロナが時代の転換点を形成しつつあるが、こうした流れを生かし加速させていくためにも、積極的に情報を発信しながら受入態勢を構築していくことが要件となるが、まずは農家自らが農業・農村に対する誇りと自信を取り戻していくことが前提となろう。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年6月5日号掲載

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