日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉複眼的な議論

2020年1月7日

 「近隣の集落はすべて消滅し、800人だった人口が20人に激減した。行事を手伝う人も減り、集落の維持が困難になった」
 食料・農業・農村政策審議会のヒアリングで中国地方の農業者が答えた内容だ。「地方消滅」の実態だが、一方で同じ中国地方には都会から若い移住者が集まる地域もある。
地方の衰退は高度経済成長とともに始まった。旧農業基本法が制定された1961年ごろから団塊の世代の若者たちは「金の卵」として大都市圏に向かい、農山村はさびれた。集団移転などで消えていった山間集落も少なくない。
 現在も若者の流出は続く。だが、都会へ出ても安定した所得や豊かな暮らしは約束されない。多くの若者は不安定な雇用に甘んじ、将来不安から結婚や子育てにも慎重だ。その構図が少子化に拍車をかける。
 総務省が2016年に行った調査では、都市住民の3割が農山漁村への移住に関心を持ち、特に20、30代は4割近い。国勢調査でも00~10年に移住者が増えた過疎地域は108区域だったが、10~15年は397区域に上る。移住を志す理由は「気候や自然環境に恵まれた暮らしをしたい」「働き方や暮らし方を変えたい」「都会のけん騒を離れたい」が4割前後を占める。地方にこそ幸せな生活があると思いながら、踏み出せない人も多いだろう。
 来春改定される食料・農業・農村基本計画を巡り、JAグループ、日本農業法人協会、全国町村会などが提言を出した。食料自給率やスマート農業など論点は多岐にわたるが、町村会は「都市・農村共生社会」を掲げた。
 同じトーンで、もう少し踏み込んだのはNPO法人「中山間地域フォーラム」の提言だ。産業政策偏重を批判し、農村振興を柱の一つとした食料・農業・農村基本法(99年制定)の原点に戻るよう訴えている。田園回帰や関係人口、多業(多様な仕事を組み合わせる働き方)など新しい動きに可能性を見出し、基本法の再改正も選択肢として提案した。
 旧基本法は農家が減れば少数精鋭の強い農業になると想定したが、そうはならなかった。大規模化や効率化も大事だが、さまざまな人々が農村にかかわって地域を活性化していく流れもある。複眼的な議論が必要だ。
(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2019年12月25日号掲載

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