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〈蔦谷栄一の異見私見〉二重の危機克服に不可欠な農政転換

2020年3月5日

 あらたな食料・農業・農村基本計画策定の議論も終盤にさしかかり、今月末には閣議決定される予定だ。農政審議会が議論の主戦場ということにはなるが、これと併行して農業団体、NPO等いくつもの団体から提言が行われてきた。そうした中の一つ、生産者・消費者・流通関係・研究者等が集まっての「持続可能な農業を創る会」に筆者も座長としてかかわって提言を行うと同時に、日本有機農業研究会、日本農業法人協会、日本生活協同組合連合会、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン等と合同し、各政党の農政担当議員と一堂に会して各提言の説明と意見交換の会を設けたところである。本欄を借りて、なぜ今、各団体がスクラムを組んでまで提言を行うのか、その理由・必然性について述べておきたい。
 それは一言に凝縮すれば「農政の一大転換が必要だ」ということに尽きる。そして「一大転換」が求められる理由は大きくは二つの危機の深化・拡大にある。
 その第一は、農産物貿易自由化の進展と農業の近代化にともなう日本農業存続の危機である。1993年12月にガットウルガイラウンドは合意したが、合意を可能にしたのはEUの直接支払いをアメリカが許容したところにあり、この直接支払いを導入することによって農業政策と地域政策、環境政策を一体的に進めることが可能になったとも言える。要するに農産物貿易が拡大し農業先進国による攻勢が強まる中で国内農業を守っていくためには地域政策、環境政策と一体化させた農業政策を展開していくしかないことが明らかにされたものである。これを踏まえて我が国も、新政策を展開し環境整備をはかりつつ99年に食料・農業・農村基本法を成立させ、これからの日本農業の向かうべき方向性を高らかに宣言した。ところが若干のデコボコはありながらも、大きくは経営規模拡大による生産性向上と所得の増大に偏った政策が展開され、地域政策、環境政策はきわめて手薄であった。その結果が担い手の減少・不足と地域コミュニティの希薄化に拍車をかけ、かつ有機農業をはじめとする環境保全型農業の停滞にもつながってきた。土壌の劣化・汚染、地力の低下をも含めて農業の持続性は低下しており、このままでは未来への展望はとうてい開き得ない。
 第二は、人口増大、貧困と格差拡大に加えて、異常気象等気候変動という地球規模の危機である。国連によるSDGsへの取組推進もさることながら、ヨーロッパを中心とした気候変動リスクへの対応の流れは急である。わが国でも異常気象が頻発するとともに災害は大規模化し、気候変動の恐ろしさを実感しつつある。気候変動リスクの増大にともなっての温室効果ガス発生の抑制は農業にとっても避けられない大課題となっている。
 第一の危機は国内農業存続の危機であるが、これに第二の地球規模での気候変動の危機が重なり、食料安全保障は足元から脅かされている。このように危機が深化・拡大する中、農業の量と同時に質が問われているものだ。農業政策と地域政策、環境政策の一体化という基本法の原点に立ち返り、持続可能な農業創りに向けて農政の一大転換が求められている。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年3月5日号掲載

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