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〈蔦谷栄一の異見私見〉親環境農業をリードするカンドン農協

2019年12月18日

 GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の失効は免れたものの、日韓関係は最悪の状況が続いている。こうした時ほど民間レベルでの交流が重要だ、との思いも手伝って、韓国の都市農業や協同組合を中心にヒアリングや現地調査に出かけてきた。
 訪問先で最も興味をひかれた一つがソウル市にあるカンドン(江東)農協の親環境農業への取組である。親環境農業は有機栽培、無農薬栽培を対象とするが、1997年に親環境農業育成法を成立させて以降、当初、助成対象としていた低農薬栽培や転換期間中を対象から除外する等によってレベルアップをはかってきた。有機農業が占める農地面積割合(16年)は1.2%と日本の0.2%(認証ベース)を大きく上回る。しかも無農薬栽培を含む親環境農業の割合は4.9%(17年)と、日本との格差は広がるばかりだ。
韓国は農産物貿易の自由化がすすむ中で親環境農業による輸入農産物との差別化戦略を徹底してきており、親環境農業直接支払も99年に開始している。また韓国農協中央会も傘下の大型流通店・ハナロマートで親環境農産物の取扱いを伸ばし、流通をリードしてきた。
 こうした中、単協段階で親環境農業の先頭を走ってきたのがカンドン農協だ。ソウル市の東端、都市化は著しいが、野菜を中心とした近郊農業地帯にある。「本農協は親環境農業に取り組んでいくためにある」との明確なスタンスの下に、農薬は一切扱っておらず、化学肥料も一部しか取り扱っていないというから驚きだ。親環境農業への取組は農協の事業減少をもたすといって反対する組合員も少なくはなかったというが、こうした決断を可能にしたのは組合長の強いリーダーシップだという。組合長は全国の親環境農業協議会の会長でもあり、この10年、全国での取組みをもリードしてきた。
 当農協は親環境農業を推進していくために4つの施策を打ち出し展開してきた。一つが生産農家である組合員への助成措置であり、有機たい肥を購入する場合、親環境農業の認証を受けていれば購入代金の80%を農協が助成、認証を受けていなくても60%が助成されるという。第二が有機農業アカデミーの開設である。毎年消費者120名を対象に、農業や親環境農業等について勉強する場を設け、親環境農産物のファンづくりにつとめてきた。すでに13期にわたって開催し、卒業生は1500名に及び、会員はネットで農協と密に結ばれている。第三が親環境農業支援センターの開設である。2010年に農地15千㎡を購入して農業体験学校を設立している。ここで年間6千人もの子供たちが農業体験をするとともに、1千人もの成人が帰農のための教育を受けている。さらに大学生120名が日当6千円をもらい夏休みを利用して農業体験団として活動している。第四に農協スーパーで親環境農産物と同時に、「ローカルフード」を大々的に取り扱っている。中でも親環境農業支援センターは大好評で、市内の他の農協でも同様の取組が広がっているという。
 日韓は共通した課題が多く、農協、組合員どうしが交流し、学びあうべきこともまた多い。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2019年12月5日号掲載

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