日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉無視できない農業からの温室効果ガス排出

2020年9月5日

 今年は「令和2年7月豪雨」と呼ばれるように九州や岐阜・長野で記録的な豪雨により大きな洪水被害を発生したが、長梅雨が終わってほっとできるかと思えば、今度は40℃に迫る〝危険な暑さ〟の連続。秋に入っての台風被害発生への懸念が募る。異常気象が恒常化するという以上に、〝異常〟の程度が加速しているのが何とも怖い。
 地球温暖化の原因として二酸化炭素を中心とする温室効果ガスが着目され、産業革命、特に戦後の成長経済の中で石炭、石油、天然ガス等の化石燃料の使用増加が原因とされる。ところがデイビッド・ウォレス・ウェルズの『地球に住めなくなる日』では、化石燃料を燃やして大気中に放出された二酸化炭素の半分以上は、この30年の間に発生したと指摘する。これに関係して河田惠章の「『日本水没』が起こる日 殺人級大雨と巨大複合災害」(『社会運動』No.439)では、雨の降り方分析の結果、1996年以降「フェーズ(局面)が変わった」とする。すなわち1996年以前とその後を比較すると、100ミリ以上の雨が降った回数は2倍に増え、80ミリでは1.63倍、50ミリ以上は1.36倍に増えている。大雨の回数が増加しているが、特に大雨ほど増加が著しい。このように温室効果ガスの排出量増加と異常気象発生の因果関係を否定しがたいと同時に、東西冷戦が終結し、資本主義が世界を席巻することになった経済情勢が大きく左右していることを示している。
 ところで農業はこうした異常気象によって大きな被害を受けているが、一方、日本で排出される温室効果ガスの総排出量に占める農林水産業の排出割合を見てみると2・8%(2015年度。以下同じ)となっている。GDPに占める農林水産業の割合は1・2%であることを考えると、農林漁業は温室効果ガス排出に関係ないどころか、むしろ大きな排出源となっていると言わざるを得ない。排出量の内訳は、二酸化炭素が0.3%、メタン1.8%、一酸化二窒素0.7%となっており、二酸化炭素の排出は少ないものの、温室効果の高いメタンと一酸化二窒素を多く排出している。あらためて農林水産業からの温室効果ガスの発生源を確認してみると、農林水産分野から排出される温室効果ガスの63.2%はメタンが占めており、稲作で37.2%、家畜による消化管内発酵で19.6%、家畜排泄物管理で6.2%となっている。また同じく温室効果ガスの25.3%を占める一酸化二窒素は、農地土壌から14.6%、家畜排泄物管理で10.6%、を占めているのが実態である。
 俯瞰して言えば、農林水産分野とはいえ排出の大半は農業によるもので、農業からの排出の主なものは稲作(37.3%)と家畜による消火管内発酵(19.6%)と家畜排泄物管理(16.8%)で、稲作と畜産が温室効果ガスの大きな発生源となっており、温室効果ガス発生抑制という視点からの農法や管理等の見直しは避けられない実情にある。このための研究や対策等も積み重ねられつつあるが、まずは農業は地球温暖化の〝被害者〟であるだけでなく〝加害者〟でもあることを認識していくことが出発点となるのではないか。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年9月5日号掲載

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