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〈蔦谷栄一の異見私見〉家族農業継承の深刻なもう一つの実情

2020年2月15日

 国連による家族農業の10年がスタートして、2年目に入った。日本では行政や研究者の関心はもっぱら法人化にある。家族農業の世界では、近時、第三者継承への注目が高まっているが、家族農業の基本問題は小規模性による低収益構造にあるとされ、規模拡大による所得増大が推進される一方で、所得確保のために直接支払いが不可欠であると同時に、欧米に比較すると政策支援が大きく劣ることが強調されてきた。いずれにしても家族農業を継続していくカギは所得増大にある、との理解が“コモンセンス”化しているといっていい。
 所得確保が経営継承の前提になることについて異論はないが、先日、果樹農家のH君からメールがあり、所得増大を中心とする経営問題もさることながら、家族農業を継承していくこと自体が時代環境の変化も加えて、容易ならざる問題を抱えていることを教えられた。
 H君の話しの概要はこうである。H君は全国にたくさんの農業者の仲間がおり、その交流は頻繁で、農業や経営問題等についてよく情報交換したり議論している。そうした中でけっこう出てくるのが、親元を離れて都会で就職し結婚もしたものの、親が高齢となり、戻ってきてほしいということで、会社を退職しUターンして就農。そしていざ親と一緒に農業を始めると、「そんな仕事ではお金を払えない」「家に住まわせているんだから、そんなにお金はかからないだろう」ということで親との間で決めた当初の約束が守られない。これが原因でまた都会に戻ったり、離婚の原因にまでなってしまったり、ということでなかなかうまく農業を引き継げないケースが多いのが実情だ、という。
 そのH君自身も、これと似たような状況に追いやられて頭を抱えているとのこと。当初、空き家を改装して親とは別のところに住んでいたが、昨年、家の引継ぎもあるので戻ってきてくれ、ということになったらしい。それまで親とは畑を区分して個人事業主として取り組んできたものの、これを機に自らの仕事は廃業して、専従者給与をもらうことに。ところが経営の方向性や農作業の段取り等で食い違いが生じるとすぐに、「出ていけ!給料は払わない」という言葉が飛び出すらしい。H君も昨年子どもが生まれ、それなりに生活費もかかることもあって、実際に資金繰りに支障をきたすこともあるらしい。
 H君の友人たちからの情報、H君自身の状況に共通しているのは、実家から離れて他産業で就職したり別経営で就農したりして獲得してきた経験なり考え方を、なかなか親は理解しようとしない、ということである。また、いずれも親はけっこう頑張って自立経営を維持してきたように推測され、親が優秀であり、それなりの経営を展開しているほどに、後を継ぐべく就農した子供への対応には厳しいものがあるように受け止められる。
 どちらの言い分が正しいかは別として、後継ぎとして戻ってきた子供にある程度は任せるだけの度量を親が持つことが必要だ。家族経営協定もさることながら、事情に精通した第三者が仲裁に入る等、経営維持を前提とした話し合いができる環境整備が不可欠なようだ。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年2月15日号(第66回JA全国青年大会記念号)掲載

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