日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉期待したい「農林水産省環境政策の基本方針」の全面展開

2020年7月5日

 新たな食料・農業・農村基本計画がスタートした。基本構図は従来方針を踏襲しながら高齢化や人口減少の進行を踏まえて地域政策の展開を強化しようとしているように理解される。環境政策については、第3「食料、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策」の2「農業の持続的な発展に関する施策」の一番最後となる(8)で「気候変動への対応等への環境政策の推進」に取り上げられているように位置づけはきわめて弱い。
 筆者が座長をつとめる「持続可能な農業を創る会」は、基本計画の抜本的見直しを求めて2月に提言をとりまとめ、農水省事務次官への提言・要請を行った経過がある。その提言の主となるのは、①持続可能な農業の推進を農政の基本に据え、最重要取組事項として環境政策と一体化させた農業への取組み強化、②持続可能な農業の定義の明確化と具体的な取組み推進、③化学合成による農薬や肥料の使用量の70%削減、④持続農業法と有機農業推進法、有機JAS制度、環境保全型農業直接支払制度の再編成による一貫した法的、制度的体系の構築、⑤有機栽培、特別栽培、GAP等、さまざまな表示の整理・体系化、等であるが、多少は当方の意図が反映されているとはしても、環境政策と農業政策の一体化を目指すものからは程遠く、言い分け程度の触れ方でしかない。
 ところでEUは、5月20日に2030年までを対象とする農業・食料分野の新戦略「農場から食卓まで」を公表した。その骨子は、・農薬の使用を50%削減、・肥料の使用を20%以上削減、栄養分の損失を50%以上削減、・畜産や水産養殖での抗菌性物質の使用を50%削減、農地面積の25%を有機農業に、・動物福祉を推進し、動物の健康や食品の品質を改善、等のきわめて野心的なものだ。このわが国とEUとのあまりにも大きな落差に愕然とするが、その基本的原因は気候変動や環境悪化に対する危機感の差にあり、EUは温室効果ガス排出量抑制への行動レベルでの取組みを最重要・最優先事項とする。
 ここで見逃してはならないのが3月16日に公表された「農林水産省環境政策の基本方針」であり、「今後、農林水産業・食品産業の成長が環境も経済も向上させる、SDGs時代にふさわしい環境政策を推進」していくとある。(1)政策のグリーン化(農林水産省が実施する各種事業の採択において、原則として、環境への取組を採択要件の一つや加点要素とすることにより、現場の取組を促進)、(2)サプライチェーンを通じた連携と消費者理解の必要性(川上から川下までサプライチェーン全体で環境負荷低減の取組と、その努力が消費者に伝達・理解される仕組みの構築)、(3)農林水産省の自己変革(職員の意識改革を徹底し、環境やSDGsを意識した政策立案と人材育成を実践。農林水産省の業務や庁舎に由来する温室効果ガス排出量を削減)、の三つの柱による取組推進を掲げている。
 農水省にも胎動はあり、本基本方針を絶対に画餅にしてはならない。旗色を鮮明にすれば、生産者・消費者・団体も知恵と力を出して応援・協力していく時代に差し掛かっている。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年7月5日号掲載

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