日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉努力の途中

 毎日新聞夕刊に連載されている森下裕美さんの4コマ漫画「ウチの場合は」は、かわいい絵柄と辛らつな批評精神のギャップが面白い。3月10日の回では、小学生のユウヤがこうつぶやく。「東日本大震災をきっかけに人間はすごく変わったと思ったんだけど、マスクやトイレットペーパーの買い占めや転売、外国人差別、なーんにもかわりゃしない」  親友で秀才の信一が答える。「人類が誕生したのがだいたい20万年前。人間はまだまだ努力の途中なんだよ。絶望したら進化できないよ」。ユウヤは救われたようにうなずく。  「いいこと言うなあ」と筆者も思ったが、ついペシミストの本性が頭をもたげ「20万年かけて人類は何を学んだのか。...

〈蔦谷栄一の異見私見〉二重の危機克服に不可欠な農政転換

 あらたな食料・農業・農村基本計画策定の議論も終盤にさしかかり、今月末には閣議決定される予定だ。農政審議会が議論の主戦場ということにはなるが、これと併行して農業団体、NPO等いくつもの団体から提言が行われてきた。そうした中の一つ、生産者・消費者・流通関係・研究者等が集まっての「持続可能な農業を創る会」に筆者も座長としてかかわって提言を行うと同時に、日本有機農業研究会、日本農業法人協会、日本生活協同組合連合会、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン等と合同し、各政党の農政担当議員と一堂に会して各提言の説明と意見交換の会を設けたところである。本欄を借りて、なぜ今、各団体がスクラムを組んでまで提言を...

〈行友弥の食農再論〉トリトンの告発

 子どものころ「海のトリトン」というテレビアニメが放映されていた。手塚治虫原作で、イルカに乗った少年トリトンが悪の「ポセイドン一族」と戦うストーリー。だが、作品のモチーフとなったギリシャ神話のトリトンは、海神ポセイドンの息子だという。  科学用語の「トリトン」は三重陽子(陽子1個と中性子2個でできた原子核)のことで、それを持つ水素の放射性同位体がトリチウム(三重水素)。このトリチウムを含む水が福島第1原発の敷地内にたまり続けている。原子炉の汚染水からセシウムやストロンチウムを除去しても、水と同じ性質のトリチウム水は残る。東京電力は22年夏ごろ貯蔵能力の限界に達するとしている。  政府は専門...

〈蔦谷栄一の異見私見〉家族農業継承の深刻なもう一つの実情

 国連による家族農業の10年がスタートして、2年目に入った。日本では行政や研究者の関心はもっぱら法人化にある。家族農業の世界では、近時、第三者継承への注目が高まっているが、家族農業の基本問題は小規模性による低収益構造にあるとされ、規模拡大による所得増大が推進される一方で、所得確保のために直接支払いが不可欠であると同時に、欧米に比較すると政策支援が大きく劣ることが強調されてきた。いずれにしても家族農業を継続していくカギは所得増大にある、との理解が“コモンセンス”化しているといっていい。  所得確保が経営継承の前提になることについて異論はないが、先日、果樹農家のH君からメールがあり、所得増大を中...

〈行友弥の食農再論〉「21世紀」はいつまで?

 英国の歴史家ホブズボームは「長い19世紀」と「短い20世紀」という時代区分を唱えた。前者はフランス革命の起きた1789年に始まり、後者は第1次世界大戦が勃発した1914年から冷戦終結の91年まで。世界史の潮流を踏まえた説得力のある説だと思う。  90年代前半は日本国内でも大きな変化があった。バブル崩壊で経済が長期低迷に陥り、成長力回復のための規制緩和など新自由主義的改革が加速した。農業でも91年発効の牛肉・オレンジ自由化が市場開放の口火を切り、93年末のウルグアイ・ラウンド(UR)実質合意に至った。これも、根底には自由貿易が経済成長を促すという経済理論がある。  UR農業合意が発効した9...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「持続可能な農業」という枠組みからの農業見直しを

 過ぐる一年を一言で凝縮すれば「加速する輸入自由化圧力の増大」ということに尽きよう。TPP11そしてEUとのFTAが発効し、最大の懸案であった日米交渉も8月の首脳会議で大枠合意して、この1月1日から発効した。日米交渉決着に際して政府は「共同声明に沿った結論が得られた」と強調する。しかしながら肝心の自動車と部品についての関税撤廃は先送りされる一方で、牛肉・豚肉関税は発効時からTPP国と同税率にする等、米国に一方的に旨味のある内容で押し切られたというのが実情だ。しかも農産品については再協議規定が設けられており、いつでも米国はエスカレートさせた要求を突き付けることができるように措置されるなど、日本の...

〈行友弥の食農再論〉複眼的な議論

 「近隣の集落はすべて消滅し、800人だった人口が20人に激減した。行事を手伝う人も減り、集落の維持が困難になった」  食料・農業・農村政策審議会のヒアリングで中国地方の農業者が答えた内容だ。「地方消滅」の実態だが、一方で同じ中国地方には都会から若い移住者が集まる地域もある。 地方の衰退は高度経済成長とともに始まった。旧農業基本法が制定された1961年ごろから団塊の世代の若者たちは「金の卵」として大都市圏に向かい、農山村はさびれた。集団移転などで消えていった山間集落も少なくない。  現在も若者の流出は続く。だが、都会へ出ても安定した所得や豊かな暮らしは約束されない。多くの若者は不安定な雇...

〈蔦谷栄一の異見私見〉親環境農業をリードするカンドン農協

 GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の失効は免れたものの、日韓関係は最悪の状況が続いている。こうした時ほど民間レベルでの交流が重要だ、との思いも手伝って、韓国の都市農業や協同組合を中心にヒアリングや現地調査に出かけてきた。  訪問先で最も興味をひかれた一つがソウル市にあるカンドン(江東)農協の親環境農業への取組である。親環境農業は有機栽培、無農薬栽培を対象とするが、1997年に親環境農業育成法を成立させて以降、当初、助成対象としていた低農薬栽培や転換期間中を対象から除外する等によってレベルアップをはかってきた。有機農業が占める農地面積割合(16年)は1.2%と日本の0.2%(認証ベース...

〈行友弥の食農再論〉「じゅうねん」がつなぐ未来

 福島では「じゅうねん」と呼ぶ。最近、健康食品として注目されるエゴマのことだ。血液をサラサラにするなどの効果があるα―リノレン酸を豊富に含み、福島での呼び名も「10年長生きする」に由来するという。  そのエゴマが、原発事故からの農業復興を担う。川内村、浪江町、飯舘村などで生産が広がっていることは知ってていたが、調理や試食も体験する機会に恵まれた。食と農と地域をつなぐ活動を行う東京のNPO法人「コミュニティスクール(CS)まちデザイン」の一員として、今月初めに飯舘村を訪問したのだ。  村内の各所を回ったが、メーンは2日目の住民との交流会。女性はエゴマを使った料理を作り、男性はうどんを打ちエゴ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉映画「ワーカーズ 被災地に起つ」の自主上映の輪を広げよう

 あなたは映画「ワーカーズ 被災地に起つ」について小耳にはさんだことはないだろうか。これは日本労働者協同組合連合会、通称ワーカーズコープが、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北を舞台に、復興に向けて地域で協働しながら奮闘する人々の姿を追ったドキュメンタリーで、厚生労働省の推薦映画にもなっている。昨年10月に東京のポレポレ東中野で劇場公開されたのを皮切りに、全国各地で自主上映の運動が展開されつつある。  その流れに呼応して、この10月17日、小金井市にある宮地楽器大ホールでその上映会が開催された。これは翌18日に行われた川崎平右衛門研究会の前夜祭的位置づけも兼ねて上映されたもので、川崎平右衛門...

〈行友弥の食農再論〉おお、運命の女神よ

 6年前、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」という曲がヒットした。失恋しかけた友人(自分?)を「未来はそんな悪くないよ」と励ます歌詞。他愛もない恋の歌と言えばそれまでだが、東日本大震災や福島原発事故の被災者への応援歌にも聞こえた。  「フォーチュン」は英語で「運命」や「幸運」を意味する。語源はローマ神話の豊穣の女神フォルトゥーナだ。豊かな実りは常に約束されているわけではなく、不作の年も必ずある。だから「運命」の意味も持たされたのだろう。  「おお、フォルトゥーナ!」の叫びで始まる合唱曲がある。南ドイツの修道院から発見された古い詩歌集に20世紀の音楽家カール・オルフが曲を付けた「カル...

〈蔦谷栄一の異見私見〉永続的経済成長という「おとぎ話」への決別

 この9月下旬にニューヨークの国連本部で開かれた気候変動問題に関するサミットは「気候行動サミット」と称する。国連事務総長は「美しい演説ではなく具体的行動を」と呼び掛けており、その思いをもろに出した名称が掲げられた。  これに日本からは小泉環境大臣が出席したが、22日の関連会合に出席した際、記者団に「スピード感を持って、できることは全部やる。日本は本気だということを伝えるべく動きたい」と抱負を述べ、また記者会見では「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈だ。気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と語ったことが報じられている。国連事務総長の思いとは真逆の、魂...

台風19号と水田

 今回の台風19号では、千曲川、阿武隈川などの大河川をはじめ各地の多く河川で氾濫、決壊、或はダムの緊急放流などの事態が発生し、大きな被害が発生した。広い範囲での短時間の降雨量のもの凄さに驚く。一か月前の台風15号で千葉県を中心に主に強烈な風による甚大かつ復旧の捗らない被害を身近に体感した関東地方では、人々の心配が募り、19号の来襲予報に対応して、大きなペットボトル入りの水や、電池、ランタン、養生テープなどといった防災対応グッズがスーパー等の棚から消える、いわば台風特需のような購買行動が見られた。それだけでなく、この地に独特な事態を目の当たりにした。  台風19号が12日の夜半に通り過ぎた利根...

〈行友弥の食農再論〉「もろこし」はややこしい

 トウモロコシは、ややこしい。郷里の北海道では「トウキビ」と呼ぶ。漢字で書けば「唐黍」になるが「唐黍」は「モロコシ」とも読む。だがトウモロコシは「唐唐黍」ではなく「玉蜀黍」と書く。トウモロコシとモロコシは同じイネ科だが、別の植物だ。古語の もろこし」は異国を意味するから、いずれにせよ外来作物に違いない。  モロコシは英語で「ソルガム」、中国語では「コーリャン」。中国を代表する蒸留酒「白酒」(バイチュウ)の原料だが、最近はトウモロコシも使うという。トウモロコシは米国が世界最大の生産国で、バーボン・ウイスキーの主原料だから、酒については「米中合作」が進んでいることになる。  経済成長を遂げた中...

〈蔦谷栄一の異見私見〉永続的経済成長という「おとぎ話」への決別

 この9月下旬にニューヨークの国連本部で開かれた気候変動問題に関するサミットは「気候行動サミット」と称する。国連事務総長は「美しい演説ではなく具体的行動を」と呼び掛けており、その思いをもろに出した名称が掲げられた。  これに日本からは小泉環境大臣が出席したが、22日の関連会合に出席した際、記者団に「スピード感を持って、できることは全部やる。日本は本気だということを伝えるべく動きたい」と抱負を述べ、また記者会見では「政治には非常に多くの問題があり、時には退屈だ。気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と語ったことが報じられている。国連事務総長の思いとは真逆の、魂...

〈蔦谷栄一の異見私見〉おれたちの直売所

 家内の実家は長野県伊那市で、95歳になる母親がまだそこそこに元気にしている。できるだけ顔を見せるために、毎月、車を走らせている。母親に会う楽しみが基本ではあるが、そのついでに顔を出すことにしているいくつかの一つが、伊那市の郊外、ますみが丘にある産直市場グリーンファームで、都度、会長の小林史麿さんと小一時間は話し込んでくる。  グリーンファームは随分と知られるようになってはきたが、手短に紹介しておけば、農免道路沿いの飼料畑の中に、1994年にオープンした農産物直売所で、個人経営による「見なし法人」である。200平方mの売り場からスタートし、その後必要に応じて増設を繰り返してきた。本年1月には...

〈行友弥の食農再論〉嫌なニュース

 暑苦しい季節に嫌なニュースが続く。昨年度の食料自給率(カロリーベース)が37%と、93年に並ぶ史上最低になった。天候不順による小麦や大豆の不作が原因というが、米の作況指数が74だったあの年とはレベルが全く違う。農業者の高齢化と後継者不足で生産基盤の崩壊が進んでいることは明らかだ。  昨年は49歳以下の新規就農者が5年ぶりに2万人を割り込んだ。多くの産業が人手不足に悩む中、若い人材の奪い合いが起きている。自給率は仮想的な数字であり、天候など偶発的要因にも左右されるが、農地・人・技術という生産要素を総合した自給力の確保が課題だろう。  国連の気候変動政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化の影...

〈蔦谷栄一の異見私見〉小さいことに価値を置く令和に

 平成から令和へと元号が変わったが、振り返ってみれば平成はTPPやFTAに象徴されるようにグローバル化の進展が顕著であり、これを必然化させたのが利益追求と組織化・システム化・規模拡大であろう。組織化・システム化・規模拡大は市場化・自由化の流れの中で膨張を続け、大きくなることによって利益と競争力を確保すると同時に競合相手を倒したり吸収・統合してきた。こうしているうちに国内でのマーケットは成熟してしまい、一方で生産能力は過剰化して、海外にマーケットを求めるしかなくなったというのがグローバル化の本質と考える。この間、競争に勝ち抜いていくためにコスト低減が至上命題となり、低廉な労働力を求めて生産拠点の...

〈行友弥の食農再論〉『農福連携』が消える日まで

 静岡県浜松市で野菜の施設園芸を営む「京丸園」の鈴木厚志社長は困惑した。規模拡大のため従業員を募集したら、障害のある子とそのお母さんが訪ねてきたからだ。「障害者に農作業は無理」と考えて断ったが、母親は「給料はいらないから働かせて」と頼み込んだ。1週間だけ農作業体験として受け入れたが「給料はいらないから」という言葉が鈴木さんの頭をしばらく離れなかった。  福祉施設に勤める知人に聞くと「もし就職できなければ、その子は福祉施設に行く。それは面倒をみてもらう立場になるということだ」と言われた。鈴木さんは「仕事はお金のためにするもの」と考えていた自分を恥じ、農業を福祉に生かすことを考え始めた。  障...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「家族農業の10年」で変えていくために

 「家族農業の10年」がスタートしたが、昨年12月の国連総会で決議された「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」とともに、家族農業と小農についての議論が広がりつつある。  「農家・市民・地域・運動・NGO・研究者などの交流・連携を深める『場』として、2019年1月に設置」された“国連小農宣言・家族農業10年連絡会”によって、参議院議員会館と衆議院第二議員会館で既に2回にわたって院内集会が開催されたのをはじめ、各地でさまざまな動きが展開されているが、正直なところまだ議論は空回りし本格的な始動には至っていないと言わざるを得ない。その主因は、国連で小農権利宣言を採択するに...

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