この7月には熊本を中心に宮崎、鹿児島で記録的な豪雨と洪水。間もなく豪雨は東に飛んで岐阜、長野で。さらに福岡や大分、広島でも発生し、甚大な被害をもたらした。しかも日本でのこうした非常事態発生に目が釘付けになっている間に、お隣の中国でも記録的大雨により長江流域で洪水が発生し、東京都の人口を上回る1500万人もが避難し、経済損失は何と1.3兆円に及ぶ見通しとの報道もある。異常気象は日本にとどまらず、地球規模で頻発しており、大雨、干ばつ、森林火災等が各地で発生している。
鬼頭昭雄『気候は変えられるか?』によれば、地球の気候の変動は、「大気・海洋・雪氷圏などからなる気候システム自体の内部変動によるもの」「太陽活動や火山噴火などの自然強制によるもの」「温室効果ガスやエーロゾルの排出さらには土地利用の変化などの人間活動に起因するもの」に分かれるとされる。目下、「このような温暖化による原因特定研究の方法自体が今まさに議論されている」最中であるとされるが、近代化・工業化が盛んになった20世紀以降の気温上昇は明らかであるとともに、地球温暖化と異常気象との因果関係は強く、異常気象が人間活動に大きく起因していることはもはや否定しようがない。
ところで、つい10年ほど前までは地球は温暖化するよりは寒冷化するとの説が多数を占めていた。この60万年ほど地球は氷期と間氷期を10万年周期で繰り返しており、現在は間氷期から氷期に向かう寒冷化の時代に入っていることから、むしろ寒冷化していく中では温室効果ガスによる温暖化現象は寒冷化を緩和するもので好ましいとの楽観論も少なくなかった。ところが現実はそうした甘い期待をせせら笑うように、温暖化圧力は強まる一方で、異常気象の度合いは並ではなく、しかも加速度をつけて進行している。
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、現時点で工業化以前に比べて約1℃気温が上昇しており、現在の進行速度が続けば2030年から2052年の間に1・5℃高くなる可能性が高いとの試算を発表している。そして現在と1.5℃、1.5℃と2℃との間には生じる影響に大きな違いがあり、2℃上昇すれば、熱波が増加し、居住地域のほとんどは酷暑に見舞われ、季節によっては居住が困難になりかねないとしている。そのうえで研究者等は「今後10~20年間の人類の行動が、地球が不可逆的な温暖化に突き進むか、それとも瀬戸際で踏みとどまるかの分岐点になる」と警鐘を発している。現状ですら既に異常気象が頻発し、甚大な被害が発生しているが、このまま気温の上昇とともに異常気象が加速度をつけて増加するとすれば、もはやこの青い地球は地獄と化しかねない。
異常気象はじりじりと食料安全保障を脅かしており、洪水等により農業生産基盤をも喪失させつつある。農業分野も含めてこの地球温暖化への対応を迫られており、農業政策の環境政策との一体化は最重要課題の一つであるだけでなく、喫緊の課題でもある。実のところ、今、未来世代にまっとうな地球を残していく責任が問われているということでもある。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2020年8月5日号掲載