日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈行友弥の食農再論〉教訓を語り継ぐ

 今月8日、福島県二本松市の東和地区に「里山文化あぶくま研究所」が設立された。研究所といっても学術研究が目的ではない。里山の生活文化を継承し、福島原発事故で傷付いた農と地域社会の再生を目指す取り組みだ。  設立の会には多彩な顔ぶれが集まった。地元農家や研究者、学生、ジャーナリストら数十人が地域の現状と未来を熱っぽく語り合った。  しかし、真の主役は2年前に63歳で亡くなった新潟大の野中昌法教授だった。野中さんは原発事故後の福島へ通い続け、有機農業の土づくりによる放射能汚染の克服に力を尽くした。その成果は著書「農と言える日本人」に詳しい。  事故直後は被災地を単なる「事例」と見て、一方的な...

〈蔦谷栄一の異見私見〉有機農業停滞の不思議

 今、世界では有機農業が拡大している。ヨーロッパは有機農業の先進地であり、耕地面積に占める有機農業比率はスウェーデン18.8%、イタリア15.4%(2017年。以下同じ)をはじめとして高く、ヨーロッパの中では有機農業比率が低く特異な存在でもあったフランスも、AMAP(フランス版CSA(Community Supported Agriculture=地域で支える農業))の普及・拡大にともなって有機農業比率は急伸しており、6.3%になっている。ヨーロッパでも平地を中心に農薬・化学肥料を使用しての大農機具や高度施設利用型の大規模経営によるさらなる農業の近代化が進行しているのも事実である。これに対して...

〈行友弥の食農再論〉虹の彼方へ

 年齢を重ねるうちに知人の訃報に接することが増えてきたが、今回はこたえた。農林年金理事長の松岡公明さんだ。先月28日、登山中の事故で亡くなった。享年62。あまりに若すぎた。  全中で米政策を担当されていたころ、駆け出し農政記者として取材したのが最初の出会いだ。豪放らい落な人柄にひかれたが、理想家肌で一本気なところも魅力だった。通夜で再会した全中の元幹部は「熱皿漢でね。手綱を引くのが難しい部下だった」と懐かしそうに振り返った。さもありなん、と思う。  当時、松岡さんがまとめた全中の「RICE戦略」は、ウルグアイ・ラウンド合意に基づく米市場開放と、それを受けた食糧管理制度廃止(民間流通主体の食...

〈蔦谷栄一の異見私見〉協同組合内協同でアクティブ・メンバーシップを後押し

 先の全国JA大会での決議は、「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合としての総合力発揮」を目指す姿とし、(1)農業者の所得増大・農業生産の拡大、(2)地域の活性化、(3)持続可能な経営基盤の確立・強化、を重点課題とする。このために組合員のアクティブ・メンバーシップの確立が必要であり、協同組合としての役割発揮が欠かせないとしている。JA批判に対抗してJA改革が進められているが、「協同組合としての役割発揮」ができるか、今、協同組合の真価が問われているということができる。  このアクティブ・メンバーシップの確立のために、「組合員のニーズにあった事業、活動、組合員組織活動等の取組み」の展開を求め...

〈行友弥の食農再論〉平成とコンビニ

 平成が終わる。元号が替わって世界が一変するわけではないが、来し方行く末を考えるきっかけにはなる。この30年、食と農の世界を大きく変えた要素の一つとして「コンビニエンスストア」に着目したい。  コンビニは平成期に急拡大した。日本フランチャイズチェーン協会によると、店舗数は1988(昭和63)年に1万店を超え、89年(平成元年)には1万6466店になった。昨年末時点は5万5743店と30年間で5倍に増えた。売上高も08年に百貨店を抜き、スーパーに肉薄している。  スーパーも同じ時期、規制緩和やモータリゼーションを背景に郊外への大型店進出が進んだ。中心市街地の商店街は「シャッター通り」になり、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉JAグループ京都の准組合員問題対策

 先ごろ、ある新聞記事に思わず目が釘付けとなってしまった。1面のトップ記事ではなく、少し後ろの5面だったかと思うが、京都府内のJAが「正・准の組合員」区分をなくし、すべて「組合員」の呼称に統一するために組合員資格の見直しを進めているとの記事である(3月20日付日本農業新聞)。すでにこの3月までに府内4JAが定款変更のための臨時総代会を開いてこれを可決しているという。この先陣を切ったのがJA京都で、5万人を超える組合員宅を個別に訪問し、組合員の資格確認調査を進めており、「農業経営や農業従事者、用水路や溝の清掃、草刈り、農道の整備などの農業関連作業、市民農園・家庭菜園などでの農産物の栽培、農業塾な...

〈行友弥の食農再論〉福島は語る

 東京・新宿などで上映中の記録映画「福島は語る」(土井敏邦監督)を見た。インタビューだけで構成された3時間近い長尺ものだ。途中で眠ってしまうかも――と案じながら見たが、全く無用な心配だった。福島原発事故でかけがえのないものを失った人々が絞り出す言葉の一つ一つが胸に突き刺さり、身じろぎもできなかった。  双葉町から避難し、会津地方の小学校に転勤した女性教諭。3月11日に全校一斉で行われる「黙とう」が耐えられず、被災地の児童を連れて学校を出た。 「何する?」「アイス食べたい!」「よし、先生がおごるぞ!」。アイスを食べながら話すうちに、心の傷があらわになる。放射能や賠償金を巡るいじめ、望郷の思い...

〈蔦谷栄一の異見私見〉キーワードは「協同」「おもしろい農業」

 JA全国大会議案が決議されるが、平成最後という一時代の区切りでのJA大会であるだけでなく、TPP11と日欧EPAの発効によって、農産物貿易自由化の大津波が到来し始めた時でもある。そして人口は減少に転じ、高齢化の進行によって、先行きさらなる米消費量減少が避けられず、あらためて水田をはじめとする農地の粗放的利用への取組みが必至とされる情勢にあるなど、時代は抜本的に変わりつつある。  JA大会では、(1)持続可能な農業の実現、(2)豊かで暮らしやすい地域社会の実現、(3)協同組合としての役割発揮、を目指す姿として、(1)では、農業所得の増大、農業生産の拡大、(2)では連携による地域活性化への貢献...

〈行友弥の食農再論〉統計は正しくても

 終戦直後の食料難。GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のマッカーサー元帥に吉田茂首相が「このままでは餓死者が出る」と食料援助を要請した。マッカーサーは応じたが、吉田の求めた量には足りなかった。それでも餓死者は出なかった。「日本の統計は信用できない」と言うマッカーサーに、吉田は「統計が正しかったら、あんな戦争はしなかった。統計通りなら我々は勝っていた」と言い返した。マッカーサーも笑うしかなかったという。  秀逸なジョークだが、実際はどうだったのか。猪瀬直樹著「昭和16年夏の敗戦」によると、実は軍部を含む各省から優秀な若手官僚が秘密裏に集められ、さまざまな統計を総合して対米戦争のシミュレーショ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「家族農業の10年」と小農権利宣言

 今年から2028年までを期間として国連による「家族農業の10年」が始まった。家族農業はFAOによる定義では「家族によって営まれるか、主として家族労働力に依拠する農林水産業」とされ、世界の農業経営体5億7000万のうち、90%の5億1300万以上が家族経営体だとされる。この家族農業を振興していくため、国連への加盟国および関係機関に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓の撲滅に大きな役割を果たしている家族農業に係る施策の推進や知見の共有等を求めている。  この背景にあって「家族農業の10年」を誘導しているのが、15年に国連で採択された「持続可能な開発目標SDGs」である。貧困のない、持続的な社会の...

〈行友弥の食農再論〉もうやめにしよう

 このコラムは1月15日に書いている。昨日は正月の門松や注連飾りを焼く光景を見た。筆者の住む地域では「どんど焼き」と呼ぶ。調べてみると「どんど」の語源は「歳徳(とんど)」、つまり歳神(としがみ)のこと。この歳神がいる縁起のいい方角が「恵方」である。毎年変わるが、今年は東北東だとか。  福を呼ぶため、この恵方を向いて節分に太巻き寿司を食べる風習が関西地方の一部にあった。その「恵方巻」が大手コンビニチェーンによって全国に広がったのは、ここ十数年ほどのことか。  しかし、節分の需要を当て込んで製造された恵方巻が大量に廃棄されている。予約販売が主流のクリスマスケーキと違って需給のミスマッチが起きや...

〈行友弥の食農再論〉災厄続きの1年

 「今年の漢字」が「災」に決まった。災害続きの日本だが、確かに今年は格別だ。愛媛や広島を襲った西日本豪雨、大阪北部地震、北海道胆振東部地震、相次ぐ台風、気象庁が「一つの災害」と表現した記録的猛暑。2月には福井県で37年ぶりの大雪も降った。  「災」という字は燃えさかる炎に見えるが、上半分の「巛」ははんらんを繰り返す「あばれ川」を表すという。津波や高潮を含め、水が猛威を振るう日本にふさわしい気もする。  水と言えば、水道法が改正された。人口減による収入減と設備老朽化で自治体の水道事業は危機にひんしている。改正の柱は事業の広域化(市町村を超えた連携)と民間に運営権を売却する「コンセッション(公...

〈蔦谷栄一の異見私見〉解決は地域農家の話し合いにしかない

 農地中間管理機構(以下「農地バンク」)の見直し方針が決定した。来年が農地中間管理機構法で定める、施行後5年を目途とする制度見直しの年となっていることにともなっての見直しではある。農水省の見直し方針案を了承するにあたって野村哲郎・自民党農林部会長が述べた「基本は(地域農家の)話し合いだ。人・農地プランがないといけない。そこに尽きる」との見解は重要で、まさしく的を突いた発言だ。  この数年、農地集積の停滞は明らかで、農地バンクの大幅な見直しは避けられない状況ではあった。すなわち2014年の施行時50.8%であった担い手への農地集積率を、23年度までに8割とする政府目標に対し、17年度は55.2...

〈行友弥の食農再論〉多文化共生への覚悟

 以前、行きつけの居酒屋でベトナム人の若い女性が働いていた。名前はリンさん。「まだ勉強中」の日本語は少し怪しかったが、接客態度は明るく好感が持てた。「国に帰ったら日本語を生かせる仕事をしたい。日本にもまた来たい」と笑顔で話した。  1年ほどで姿を見なくなったが、コンビニなどでもグエンさん、ドンさんなど、ベトナム人らしい名札の従業員が増えた。逆に中国系らしい漢字の名前は少なくなった。世界第2位の経済大国は、もはや外国人を呼ぶ側になりつつある。  「労働者を呼んだつもりが、来たのは人間だった」。スイスの劇作家マックス・フリッシュがそう書いたのは50年以上前。スイスも小国ゆえの労働力不足に悩み、...

〈蔦谷栄一の異見私見〉農業は地域で守る

 TPP11は来年1月の発効見通しが示されるとともに、日米物品貿易協定(TAG)交渉も来年1月から開始される。TAGはFTAではない、いや、FTAを詭弁を弄してTAGでごまかしているにすぎない、との論議もある。要はアメリカがTPPを超える水準での貿易自由化を日本に強要しようとして圧力を強めていることに変わりはない。  こうした貿易自由化の進展、農産物貿易の拡大、すなわち低価格農産物の輸入増加を想定し、その対策として取り組まれてきたのが「農林水産業・地域の活力創造プラン」であると理解される。2016年11月に改訂された中身をあらためて確認しておけば、(1)国内外の需要を取り込むための輸出促進、...

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