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〈行友弥の食農再論〉「激辛」の料理人

2020年9月25日

 安倍一強政治がついに終わり、菅新政権が発足した。安倍前首相の辞意表明まで菅氏は「自民党総裁選への出馬は全く考えていない」と否定し続けたが、実際は早くから「ポスト安倍」に布石を打っていた。多くのメディアがそう報じているが、岸田派・石破派を除く自民党の主要派閥が足並みをそろえた結果を見ても明らかだ。

 横浜で記者をしていた22年前、まだ衆院1期目だった菅氏に選挙情勢などを聞いたことがある。取材対応は丁寧で、情報収集力の高さや分析の鋭さにも感服した。半面、自分の本音は見せず、常に人を「値踏み」しているような冷徹さも感じた。

 本社経済部のデスク時代には、部下の総務省担当記者が愚痴をこぼしていた。菅総務相(当時)は地方視察に同行取材するような熱心な記者には、おいしい「ネタ」をくれるが、そうでない記者は露骨に冷遇する傾向があった。

 14年に「ふるさと納税」の上限額倍増を巡って菅官房長官(同)と対立した8カ月後、総務省自治税務局長から自治大学校校長に転出した平嶋彰英氏(現・立教大特任教授)は12日付の朝日新聞のインタビューでこう語っている。「『官邸からにらまれる』『人事で飛ばされる』と多くの役人は恐怖を感じ、政策の問題点や課題を官邸に上げなくなっている」。菅氏本人は13日のフジテレビの番組で、政権の決めた政策に反対する省庁幹部は「異動してもらう」と言い切った。

 菅氏は秋田県の農家に生まれ、高卒で上京した。苦学して大学を出たというが、実家はイチゴ栽培で成功し裕福だったようだ。上京は農業を継ぐのが嫌だったからで、文字通り「貧農」の家に育った田中角栄元首相とは違う。農業や地方への思い入れを語る菅氏だが、平嶋氏は「根底には新自由主義的な発想があると感じる。競争を重視しすぎるあまり、弱者へのまなざしが感じられない」と評する。

 菅氏が信奉するというマキャベリは「君主論」でこう言っている。「(君主は)愛されるより恐れられるほうが、はるかに安全である」(池田廉訳)。酒は一滴も飲まぬ大の甘党という菅氏だが、作るのは激辛料理かも知れない。

(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2020年9月25日号掲載

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