コロナ禍で「食料危機」が深刻化している。海外の低開発国や紛争地だけでなく、国内でもだ。恵まれない子どもたちを支援するNPO「グッドネーバーズ・ジャパン」のアンケートで、母子家庭など「ひとり親」世帯の食を巡る苦境が浮かび上がった。
同団体が運営するフードバンクの利用者を対象とした今年9月の調査によると、親の41・9%、子の10・5%が「食事の量が減った」と回答。「回数が減った」も親の29・4%、子の5・8%に上る。一斉休校で学校給食がなかった5月より子どもは改善したが、その分だけ親が悪化した。給食の重要性とともに、子どもたちにひもじい思いをさせまいと親が我慢する構図も透けて見える。
厚生労働省によると、母子家庭は1995年の53万世帯から、2015年には75万世帯と20年間で4割も増えた。その平均所得(16年)は290万円で、全世帯平均(560万円)の半分程度。パートなど非正規雇用で働くシングルマザーが多いからだ。保育施設の不足も背景だろう。
先日、ある大手紙の投書欄に「GoToキャンペーンは不公平だ」という投書が載った。旅行やリッチな食事を楽しめるのは余裕のある人だけで、コロナで仕事を失った人や、休みが取れないエッセンシャル・ワーカー(医療・介護など社会基盤を支える働き手)は利用できないという趣旨だった。
加えて言えば、観光や外食の業界でも中小零細業者には恩恵が薄いと言われる。これまで感染者の少なかった地方にもGoToで第3波が広がり、苦しい思いをする人々が増えるとしたら、ますます本末転倒だ。
いささか旧聞に属するが、今年のノーベル平和賞は紛争地や低開発国で食料援助に当たる国連世界食糧計画(WFP)が受賞した。朗報ではあるが、それだけ食料問題が深刻だということでもあり、心の底からは喜べない。
WFPや国連食糧農業機関(FAO)が言う「フード・セキュリティー」は「食料安全保障」と訳されるが、日本で語られるそれとは意味が違う。国単位の食料需給ではなく、一人一人の「人間の安全保障」が世界では問題なのだ。飽食の中に飢餓が忍び込む日本は、果たして大丈夫だろうか。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2020年11月25日号掲載