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〈蔦谷栄一の異見私見〉農水省と環境省の連携強化で新時代を切り拓け

2020年11月5日

 安倍政権から菅政権へとバトンタッチが行われたが、官房長官として安倍政権の全般を取り仕切ってきた菅氏の首相就任であり、基本政策は継続され、大きな変化は期待できないと思っていた。それが所信表明演説で、温暖化ガスの排出量を2050年に実質ゼロを表明したのには正直驚かされた。政府はこれまで「50年に80%削減」「脱炭素社会を今世紀後半の早期に実現」の方針を掲げており、「50年までに実質ゼロ」を打ち出し、さらにその前倒しを検討しているとされるEUは勿論のこと、習主席が今年9月の国連総会で60年までに実質ゼロを表明した中国に比べても消極的との批判は免れ得ないものであった。菅首相の本気度はこれからの政策の具体化の程度によって見定めるしかないが、「50年までに実質ゼロ」を宣言したことについては大いに評価したい。

 こうした動きも織り込んでのことなのであろうが、10月23日に、野上農水相と小泉環境相が共同記者会見を開いて、「コロナ後の経済社会の再設計に向けて農林水産政策と環境政策の一層緊密な連携強化を図ることで合意」したことを発表したが、これにもいささか驚かされた。筆者は「持続可能な農業を創る会」のメンバーとして、本年4月にスタートした基本計画に向けて、農業政策と環境政策の一体化をはじめとする提言を2月に農水省事務次官に説明・要請してきた経過がある。残念ながら基本計画に明確な表現で盛り込まれることはなかったが、ここにきてやおら実質的な動きを始めたようにもみえる。

 連携強化は、農水省が取り組む農業生産のグリーン化やスマート農業の促進、今後策定予定の「みどりの食料システム戦略(仮称)」と、環境省が取組地域資源を活かした自立・分散型社会「地域循環共生圏」の創造が対象とされている。このため13の課題があげられており、脱炭素社会への移行、循環経済への移行、分散型社会への移行、国際交渉における連携、働き方改革や広報戦略での連携等があげられている。

 この中の脱炭素社会への移行については、「地域の活性化と農林水産業における2050年CO2ゼロエミッション達成を目指し、農山漁村における再生可能エネルギーの導入促進を含む食とエネルギーの地産地消、省エネの取組、バイオマスエネルギーの利用促進、農地土壌への炭素貯留の促進、ブルーカーボンの吸収源としての可能性の検討等について連携協力する」とされている。連携強化による取組進展を期待したいが、このためには農水省はその前提となる環境負荷の少ない持続可能な農業への転換のための取組が欠かせない。

 このほど発表された国連防災機関(UNDRR)の報告書によれば、直近20年間(2000~19年)に発生した気象災害は、その前の20年間(1980~99年)に比べ8割以上増加し、農業被害も多発している。「降雨パターンと降水量の変化は、農業地帯の7割に悪影響を与え、13億人の農業者が災害の危険にさらされ、世界の食料安全保障が脅かされる」との警鐘を発している。時間的余裕はなく、本格的取組展開は待ったなしの情勢にある。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年11月5日号掲載

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