日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉第一次産業が地球を救う

2021年3月5日

 今回の話は食料安全保障がテーマではない。気候変動対策としての温室効果ガスの排出抑制に、第一次産業、特に農業の変革によって積極的に貢献していこうという話である。

 農水省と環境省は昨年10月、菅首相の国会での総理大臣所信表明演説に先立ち、農林水産業における2050年カーボンニュートラル達成に向けて連携を強化していくことで合意した。これを受けて環境省が「地域循環共生圏」の創造を展開していくのと併行して、農水省は「みどりの食料システム戦略」の策定を急ぐ。

 みどりの食料システム戦略は、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬使用量(リスク換算)の削減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の削減、有機農業面積の拡大、食品製造業の労働生産性の向上、持続可能性に配慮した輸入原材料調達を実現、を2050年までに目指す姿と想定しての作業がすすめられている。本年3月中には中間とりまとめを行い、5月での戦略決定を目指す。

 今後、具体的政策についての論議が展開されることになろうが、これに先立ち本戦略の建付けについて提言しておきたい。基本柱をCO2ゼロエミッションに置き、CO2の削減を重視した農政見直しを骨格とすべし、というもので、温暖化に不安を募らせる国民の理解も獲得しやすくなるのではないか。また食料・農業・農村基本法の理念に合致することにもなる。

このために次の実情を踏まえておくことが欠かせない。農林水産分野からの温室効果ガス排出量は5001万トン(2018年度。以下同じ)であるが、一方で吸収量は森林の4700万トンに、農地・牧草地での750万トンを加えて、若干の吸収超となる。別途、日本の全排出量の4.0%となる農林水産分野からの温室効果ガス排出の中身を見ると、その33%は燃料燃焼、27%が稲作、そして家畜からが27%(15%が家畜の消化管内発酵、12%が家畜排泄物管理)となっており、そのほとんどは農業からの排出となる。

 そこでCO2削減の方策は、まずは主要な吸収源である森林の維持・管理と農地の有効利用が大前提になる。そのうえで農機具の燃焼効率向上、水田稲作での中干し期間の延長、浄化槽の改善やバランス飼料の開発等への取組みを重点化する。また積極的なCO2削減に向け、畑地、果樹園も含む農地土壌での炭素貯留の増加を目玉とし、このため堆肥や緑肥の投入、不耕起や浅耕、微生物の活用等による農業の質的転換を基軸とする。そしてこれに対応して有機農業や環境保全型農業を推進していくとともに、消費者が温暖化対策に寄与した農法で作られた農作物の選択を容易にする表示・認証の見直しと流通改善をはかっていく。

 こうした構図を明確にしながら方策を具体化していくことを提言するものであるが、このためにも農業分野でのCO2削減の数値目標を打ち出したい。農林水産業を大幅なCO2吸収超にしていくことによって気候変動対策に大きく貢献していく。そして国産国消に意を注いでいる農協系統がその先頭に立って全体をリードしていく。大いに期待したい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年3月5日号掲載

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