農林水産省は、昨年10月の菅総理による、2050年年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を受けて農政の見なおしをはかっており、その基本方針となる「みどりの食料システム戦略」を本年5月に決定すべく、策定作業を急いでいる。これに向けての中間とりまとめがこのほど公表された。すでに3月の5日には中間とりまとめの案が公表されたことから、「有機農業比率25%目標」等の見出しで、マスコミは大々的に農政の転換について報じてきた。
あらためて出された中間とりまとめの参考資料を見ると、みどりの食料システム戦略は「農林水産業・地域の活力創造プラン」を改訂してその中に位置づけられることになる。そして改訂にあたっては、みどりの食料システム戦略とあわせて、先に決定している2030年輸出額5兆円を目標とする「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」が追加される。
ここで問題にしたいのがその二つの追加の仕方、またその関連についてである。先に輸出拡大実行戦略についてであるが、現在の活力創造プランの第1項目は「国内外の需要を取り込むための輸出促進、地産地消、食育 等の推進」となっている。これを農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略の決定にともない、「国内外の需要をさらに取り込むための農林水産物・食品の輸出促進」として、輸出促進の章として独立させることが想定されている。これにともない第1項目に最重要事項としてあわせて位置づけられてきた「地産地消、食育等の推進」が切り離されることになり、あらためてこれがどこに位置づけられることになるのか、また見える形で残されるのかどうか、これはきわめて重大な問題だと受け止めている。
そしてみどりの食料システム戦略についてであるが、人口減少等に対応した関連施策の見直し、その他の政策改革とあわせて、「ポストコロナに向けた農林水産政策の強化」として、活力創造プランのやっと最後に12章として活力創造プランに追加されるという位置づけとなる。内容的には、「2050年までに目指す姿」として、CO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%(100万ha)に拡大、等の相当に思い切った目標が掲げられている。まさに日本農業の質的大転換をはかろうとするもので、これが新たに追加されるとはいえ、最後の項目というのでは国際的にみて本気度を疑われかねない。カーボンニュートラルによる気候変動対策がEU等では最優先課題とされている状況の中で、いくら経済と環境の両立が前提ではあっても、輸出拡大戦略とみどりの食料システム戦略の位置づけの差は日本の政策レベルのプアの象徴でしかない。
カーボンニュートラル実現のための実行は国際的にもはや逃げることは許されず、その可否は日本の国際的評価に直結するものでもある。政策当局だけでなく生産者も消費者も、その関係団体もみな腹を括って気候変動対策に取り組んでいくことが必要だ。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2021年4月5日号掲載