日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉withコロナ時代が求める「地域社会農業」

2021年1月5日

 新しい年を迎えたが、2020年は欧米では年末にワクチン接種が開始されたとはいえ、一方で変異種が猛威を振るい始めるなど、コロナの影響は長期化・恒常化しそうな気配だ。暮らしや経済等への影響が一段と深刻の度を増し加えていくことが懸念されるが、こうした動きと併行して気候変動対策の流れが加速するとともに、我が国農業では米過剰の顕在化、農業経営体の減少等、構造的な問題が顕在化・深刻化した一年でもあった。

 コロナについてはさまざまな論評が飛び交っているが、本質的には感染症対策として3密回避が絶対要件となる中で、都市化することによって発展してきた近代文明のあり方が問われているように受け止めている。土から離れて、活動を都市空間に集中することにより効率性・便宜性を高め、一方で画一化しながらの徹底した管理社会をつくり上げることによって、GDPに象徴される〝豊かさ〟を増大していくところに最大の価値を置いてきた。その限界をいみじくもコロナがさらけ出し、〝豊かさ〟の意味を問うているように思う。

 今、基本的に求められているのはソーシャルディスタンスを保ち、分散をすすめていくことではないか。人と人の間で適正距離を保つことが必要とされていると同時に、国のあり方も都市に集中した人口を農村に還流させることにより、東京一極集中型から多極分散型に転換し、各々の地域で地域資源を活用しての循環を膨らませていくことが求められている。このための社会変革の梃子となるのがSNSと「農」であると考える。SNSは所詮はバーチャルで管理社会を加速させる本性を持つことから、欠かせないのが命、リアルに触れる市民農園等の農的空間の提供で、自ずとソーシャルディスタンスの確保につながる農的活動の特性を活かしていくものである。とはいえコロナによる自粛に対応して、すべての国民が農的楽しみを享受できるようにしていくためには農業のあり方の見直しが避けられない。

 農業見直しについての要点を掲げれば、①ライフスタイル変化させていくための国民皆農という方針の明確化、②都市から農村への人口還流、③地産地消の推進、④多様な担い手による多様な農業の展開、⑤農業政策と地域政策・環境政策の一体化、⑥地域農業への取組振興、となろう。これらについて若干補足しておけば、①は命、リアルに触れる農的活動を国民が持つ基本的権利とし位置づける。➁は既に起こりつつある田園回帰の流れを加速していくため受け入れ条件の整備が必要となる。➂は農産物にとどまらず人・モノ・金という地域資源を地域の中で極力循環させていくことが求められる。④は大規模農家の育成・確保だけでなく、小農・家族農業をも担い手として明確に位置付け、少量多品種による生産をも重視していくことが必要となる。⑤はその中心となるのが有機農業を含めた持続可能な農業を展開していくことであり、温室効果ガスの排出削減への注力が必須となる。⑥は⑤までの要素を包括し地域農業として振興・展開していくことになる。この到達点としての地域農業は「地域社会農業」と呼ぶにふさわしい。コロナは農業の変革をも迫っている。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2021年1月5日号掲載

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