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〈行友弥の食農再論〉いのちの食べかた

2021年2月26日

 穀物の国際価格が歴史的水準まで上昇した2008年。飼料価格高騰に悩む養鶏業界を取材した。初めて養鶏場に足を踏み入れて驚いたことが二つある。一つは徹底した鳥インフルエンザ対策。車と靴の消毒に始まり、下着を含む衣類をすべて着替えた。小さな部屋で薬剤の噴霧を受け、専用の作業衣に帽子やマスクを身に付けて、やっと鶏舎内に立ち入ることが許された。

 もう一つは鶏の密集度だ。正確には覚えていないが、4、5段に重ねられたケージ内に身動きできないほど詰め込まれていた。前年に女性を「産む機械」にたとえて批判を浴びた大臣がいたが、あれこそが「産む機械」だろう。いくら対策を取っても鳥インフルが瞬く間に広がるのは、高密度飼育にも一因がある。

 同じころ、欧州の食料生産現場をルポした「いのちの食べかた」という記録映画を見た。徹底的に効率化された工程で、機械的に処理されていく生き物たちの姿。その一つに無数のヒヨコがベルトコンベアーで運ばれ、箱の中にポンポン放り込まれていくシーンがあった。ダイジェスト版は今もYouTubeで視聴できる。

 15年ほど前の映画なので、現状は違うのだろう。欧州連合(EU)は9年前、鶏を従来型ケージで飼うことを禁止した。消費者の声に押されてのことだったという。ひょっとしたら、あの映画の影響もあったのか。

 吉川貴盛元農相が大手養鶏業者から現金を受け取ったとされる汚職事件。一つの背景はアニマルウェルフェア(動物福祉)問題だった。欧州にならって「密飼い」を改め、巣箱や止まり木を設ける国際獣疫事務局(OIE)の基準案が通れば、日本の養鶏業界は大幅なコスト増を強いられる。それを阻止するための賄賂だったというのだ。

 鶏卵が「物価の優等生」と呼ばれてきた陰には、血のにじむような業界の経営努力があった。しかし、それは「いのち」を徹底して「モノ」として扱うということでもあった。このゆがみを正す責任を直接に負うのは生産者や行政だが、1個20円以下の卵が「当然」と思っている消費者がいる限り、抜本的な変化は望めない。欧州の消費者は生産現場を変えた。さて、日本はどうしよう。

(農中総研・特任研究員)

日本農民新聞 2021年2月25日号掲載

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