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〈蔦谷栄一の異見私見〉協同組合運動の変革を迫る労働者協同組合法の成立

2020年12月5日

 労働者協同組合法が12月4日に成立した。労働者協同組合の一つである「ワーカーズコープ」は、戦後の失業者対策事業に端を発し、1979年に失業者や中高年者の仕事づくりを目指す「中高年雇用福祉事業団」を結成。86年にこれを「労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」に改組したもので、実質30年以上かけて根拠法獲得の実現に至ったものだ。

 労働者協同組合法によって実現しようとする「協同労働」は、①組合員が出資、②組合員の意見を反映、③組合員が組合の事業に従事、という三原則に基づいて運営される。すなわち働く人が自ら出資し、運営にも携わる。

 これまで根拠法を持たないワーカーズコープは、企業組合やNPO法人等として活動を展開してきたが、本法の成立によって、企業組合が都道府県知事の認可が必要なため手続きに時間を要するのに対して、認可は不要となり届出だけで設立可能となる。またNPO法人は、手掛ける事業が福祉を含む20分野に限定されるが、労働者派遣業以外はどんな業種の仕事も可能となる。法律的に非営利団体であるとされるのは当然であるが、3人以上の発起人がいれば設立でき、組合は組合員と労働契約を締結することによって社会保険や労働保険に加入できることにもなる。

 さて労働者協同組合法の成立にともない、既存の協同組合がこれとどう向き合っていくのか、どのように連携していくのかが次の大課題となる。既存の協同組合陣営でも法的根拠を持つ協同組合の仲間が増えたことを歓迎する声が巻き起こっているが、本件は仲間が増えたという話にはとどまらないことを力説しておきたい。

 ワーカーズコープの最大の特徴は〝小さい〟ところにある。すなわち当事者が自ら作り自ら運営していくもので、既存の組合員=お客様という関係にはない。組合員へのサービスの提供・拡大を梃子にしての事業強化・組織改革、あるいは数を力としてきた既存の協同組合とは本質的に異なる部分を持つ。

 JAは自己改革を推進してきたが、第一段階のコスト低減、組合員へのサービス強化による事業見直しから、組合員の主体性を前提とした本来の協同活動を目指す第二段階に移行していけるか、あらためてその存在意義が問われているといえる。労働者協同組合法の成立は他人事ではなく、既存の協同組合自身の問題として受け止められるかが肝心なところだ。

 筆者はこれまで「協同組合内協同」を展開していく必要性を叫んできたが、今、自由化・市場原理が徹底し、商系との競合が激化する中、組合員の高齢化が進行し、担い手のJA離れが続く。大きくなった協同組合をさらに大きくしていくところに問題解決の解はない。そうではなく、たくさんの小さな協同活動を作り出していくことでしか途は拓かれない。具体的には加工や販売、部会活動等々に〝小さな協同〟という働き方を導入していくことが必要である。そしてその本丸は生産分野、特に集落営農を中心とする担い手組織の再生にある。ワーカーズコープと連携・一体化し、地域営農の再建をすすめていくことが急がれる。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2020年12月5日号掲載

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