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〈行友弥の食農再論〉「よい仕事」をつくる

2020年12月25日

 筆者が新聞記者として最後に書いたのは労働者協同組合(ワーカーズコープ)に関する記事だった。毎日新聞夕刊の「人模様」欄で、当時の日本労働者協同組合連合会理事長、永戸祐三さんを紹介した。取材の経緯はよく覚えていないが、その年(2012年)が国際協同組合年だったことと、前年の東日本大震災が関係していたように思う。記事が掲載されたのは、現在の会社に転職した後の同年7月9日だった。

 永戸さんは熱い人だった。東北の被災地におけるワーカーズの活動を説明し「今こそ我々の力が試されている。グローバル化とマネー資本主義で傷んだ社会を、市民が主人公になる社会に変革しなければ」と身を乗り出して語った。

 恥ずかしながら、取材に行くまでワーカーズのことはよく知らなかった。「労働組合とは何か関係ありますか?」と聞いて苦笑された。1971年に失業者や高齢者の就労のため結成された「高齢者事業団」を原点に、働く人が自ら「よい仕事」を作ってきた歴史を教わった。字数の制約で記事には盛り込めなかったが、永戸さんは労働者協同組合の根拠法制定にも強い意欲を示されていた。

 その悲願が、ようやく実を結んだ。4日の参院本会議で「労働者協同組合法」が成立した。超党派の議員立法で、全会一致の可決である。最近、永田町から届くニュースにはろくなものがなかったが、久々の朗報だ。日本の協同組合運動にとって画期的な前進と言える。

 2年前には記録映画「Workers 被災地に起つ」が公開された。傑出したヒーローは一人も出てこない。「自分はなぜ生き残ったのか」と自問する被災者や高齢者、障害者、ひきこもりなど、さまざまな心の傷と孤独感、生きづらさを抱えた人々が地域の中に「居場所」と「役割」を見つけ、顔を上げて歩き出す。その姿に感動した。

 働くことは誰かとつながること。そして、その誰かを通じて社会とつながることだ。それは「生きること」そのものと言ってもいい。さまざまな分断や孤立、排除にさいなまれる現代社会を「復興」するには、この道しかないのではないか。法制化をバネに、協同労働の営みがさらに力強く前進することを願う。

(農中総研・特任研究員)

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