スーパーがない。商店街もない。飲食店は数軒あるが、夜は営業しない。そんな福島県飯舘村に住んで間もなく3カ月。食料品をまとめ買いするには、隣町まで往復1時間近く車を走らす必要がある。忙しい時は村内に1店舗だけあるコンビニが頼りだ。ついつい、温めれば食べられるような調理済み食品で腹を満たすことが多くなる。食と農にこだわりの強い人には顔をしかめられそうだが、農業が身近な地域に、実はこんな現実もある。
他の住民はどうしているのかと思ったら、生協などの宅配サービスや軽トラに商品を積んだ「移動スーパー」を利用する人も多いらしい。そう聞いて自分も生協に加入したが、宅配のカタログを見たら、冷凍食品のオンパレードだった。単身者には確かに便利だが、気持ちも冷える。
最近、ある全国紙が「エンゲル係数の上昇」を伝えていた。エンゲル係数は家計全体の消費支出に占める食料支出の割合で、所得が低いほど高くなる傾向がある。経済的に余裕がなくても食費は削りづらいからだ。
日本では高度経済成長期以降、所得の増加を背景にエンゲル係数は下がり続けてきた。だが、総務省の家計調査を分析したある論文によると、2005年に底を打ち、その後は上がり続けているという。新聞記事は最近の食料品の値上がりを上昇の原因として挙げていたが、もう20年近く上がり続けているとしたら、短期的な要因だけでは説明できない。
論文は、高齢化や世帯の縮小など社会構造の変化を背景として指摘する。子育てを終え、教育やレジャーにお金をかけなくなった高齢者世帯では、相対的に食費のウエートが高まるのは当然だ。単身世帯や共働き世帯が増えれば、生鮮食品よりは割高な中食(調理済み食品)や外食に消費が向かうことも、エンゲル係数の押し上げ要因になる。
「日本人が貧しくなったわけではない」と安心できる話でもない。コンビニや宅配の冷食を一人で食べるような食のあり方は、やはり豊かとは言えない。孤立しがちな食の弱者を、どのようにして「共食」の場に包摂していくのか。都市と農村を問わず、考えなければならない問題だと思う。
(いいたて結い農園勤務/農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2024年12月25日号掲載