トランプ政権が発足して3ヶ月。早々にガザ地区そしてウクライナをめぐる和平交渉に着手。想定通りに和平交渉は進展できずにいる中、4月の2日、トランプ大統領は全世界を対象にした相互関税の実施を発表した。中国やインド、EUとともに、「我々の友である日本は(米国産のコメに)700%の関税をかけている。我々に米を売ってほしくないからだ。」(4月4日付け日本経済新聞)と日本を名指しして批判を行った。
本稿ではトランプ大統領の真意や行動、今後の見通し等について云々することは横に置く。相互関税の発表にともない日米協議が開始され、両国ともに早期の結論を目指していることから、本稿の掲載時点では一定程度の方向性なり結論めいたものが出されている可能性もある。この協議を巡っての日本国内の動き、米、農産物をめぐる〝昔見た風景〟について取り上げたい。
これまでのガットウルグアイラウンドをはじめとする貿易交渉での、自動車をはじめとする工業製品の輸出を確保する見返りに農畜産物を差し出すという構図が今回も繰り返されようとしている、またかということである。この4月15日に財務省の諮問機関である財政制度等審議会の分科会が開かれ、ここでミニマムアクセス(MA)米の主食向けを増やして安定供給につなげていくことを内容とする提言が取りまとめられた。令和の米騒動発生以降、高騰を続ける米価格を背景にしたもので、財務省は米の輸入論議に火を点け、米輸入拡大をリードしようとしているかの如くである。
つい3年前、ロシアによるウクライナ侵攻をトリガーに農産物価格とともに農業資材価格が高騰し、食料安全保障の確保が最重要課題となって、昨年5月に食料安全保障を軸に改正食料・農業・農村基本法を成立させ、これを踏まえた基本計画をスタートさせた矢先でのことである。所得補償もなく輸入自由化で弱体化が著しい日本農業だからこそ輸入を拡大すべきなのか、日本農業の構造に梃入れして再生をはかり、食料自給率を向上させて食料安全保障を確保すべきなのか、近年の穀物需給、国際情勢を踏まえれば、答えは明らかであろう。この近年の経験すら生かすことのできない財務省とは一体何者なのか。
江藤農相は閣議後の記者会見で、「主食で自給可能なコメを海外に頼る体制を築いてしまう」「お金を出しさえすれば(食料が)手に入ると日本人が信じすぎたゆえに、食料自給率が低くなった。農業者の方々が(コメを作る)意欲を失ってしまう」「コメの国内生産が大幅に減少してしまうことが国益なのか。国民全体で考えていただきたい」と語っているが、これがまっとうな日本人が考えることだ。
関連して思い浮かぶのがスイスである。山間地のスイスでは農産物価格が高いのは当然であり、多くの国民は高くても国産の農産物を購入している。国産を購入することは、食料安全保障は勿論、国土保全、水源涵養、自然環境保全、景観形成など様々な社会的価値の維持につながる。国民の国産についての理解と支持を獲得していくことが欠かせない。(4月25日現在)
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2025年5月5日号掲載