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〈行友弥の食農再論〉自国第一主義の危険な誘惑

2024年11月21日

 1929年、米国の株価暴落から始まった大恐慌は、またたく間に世界へ広がった。日本も「昭和恐慌」と呼ばれる深刻な不況に陥り、街に失業者があふれた。特に悲惨だったのは農村で、生活に困窮し娘を身売りする親も多かったといわれる。そんな状況への不満や怒りが満州事変に始まる対外侵略や二・二六事件などを契機とする軍国主義の台頭、そして太平洋戦争開戦につながっていった。

 経済政策でも各国は「自国ファースト」に走った。日本では高橋是清蔵相がデフレ政策に終止符を打ち、大胆な積極財政と金本位制離脱(金融緩和)を断行。景気は回復し円安で輸出も増えたが、貿易摩擦が激化した。欧米は植民地を含む自国の経済圏を守ろうと、高関税で輸入を阻止するブロック経済体制に移行し、日本も満州国などを含む「円ブロック」を築いた。こうした世界経済の分断も第二次世界大戦勃発の背景になった。

 有名なのは米国のスムート・ホーリー関税法(30年制定)だ。広範な物品にかかる関税を大幅に引き上げる内容に、多くの経済学者が「長い目で見れば自国経済にもマイナス」と警告したが、当時のフーバー大統領は無視した。

 それから94年になるが、やはり歴史は繰り返すのか。予想外の大差で返り咲きを果たしたトランプ次期大統領が、再び関税引き上げを掲げている。日本にも影響が出そうだが、最大の標的は中国だ。互いに最大級の貿易相手国である米中のデカップリング(分断)は、世界経済の大きな混乱要因になりかねない。

 筆者は自由貿易論者ではないが、一方的な国境措置(関税や数量制限)で国内産業を守る手法には賛成できない。大戦の反省を踏まえて48年に発足したGATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制は、国際協調を基本に多国間合意による包括的な貿易秩序の構築を目指した。現在はWTO(世界貿易機関)に引き継がれているが、その王道に戻るべきだ。

 経済だけの問題ではない。日本国憲法前文は「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」とうたっている。米国から贈られたこの崇高な理念を、今度は日本が米国に説くべき時だと思う。

(いいたて結い農園勤務/農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2024年11月21日号掲載

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