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〈行友弥の食農再論〉移住者に求められる覚悟

2025年1月25日

 人口減少に悩む福島県飯舘村では、移住者を呼び込むため年数回のツアーを組んでいる。数人~十数人の参加者を村内各所へ案内し、簡単な農作業や手仕事も体験してもらう。筆者も主催者側として3回同行したが、参加者には概して好評だ。最後に感想を語り合う場では「自然の豊かさや村の人たちの温かさに感激した。移住を前向きに検討したい」といった発言が相次ぐ。

 ただ、ドキリとした場面もある。ある地区の交流会で住民の男性がこんな発言をした。「自然がきれい、人情が温かいだけでは暮らせない。村には仕事がない。(移住には)覚悟が必要だ」。他の女性も言った。「田舎暮らしはお金がかからないと言われるが、暖房費や車などで都会より生活費はかさむ。テレビで取り上げられる移住者は成功例ばかり。よく考えた方がいい」

 他の住民からはとりなすような発言も出たが、空気が重くなったのは否めない。筆者も戸惑ったが、同時に「よく言った」とも思った。村の実情を知ってもらうなら、厳しい部分も伝えなければ公平を欠く。そうしないと、双方にとって残念な結果になりかねない。

 住民は移住者を拒んでいるわけではない。別の女性は「自分の子も戻ってこない。老夫婦で農業を営んでいるが、私らの代で終わりかも」と語った。若い人が来て子を産み育ててくれれば、地域の未来に光が差す。本当は仕事がないわけではない。農業・医療・介護などニーズは大いにある。問題は収入面や生活の利便性、子育て環境などだが、村や県がさまざまなサポート策を講じている。

 締めくくりの会合で参加者からどんな感想が出るか心配したが、案ずるほどのことはなかった。ある女性は「直球をぶつけてもらえて良かった。確かに覚悟は必要だが、それを支える態勢もあると感じた」、別の女性は「移住して自分が何を得るかだけでなく、自分に何ができるかを考えたい」と話した。

 人が人間らしく生きていくには受け取るだけでなく、与えるものも必要だ。農山村の暮らしは厳しいが、だからこそ都市にはない一人一人の「居場所と役割」がある。それも地方移住の魅力だと思う。

(いいたて結い農園勤務/農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2025年1月25日号掲載

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