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〈行友弥の食農再論〉米が主食でなくなる日

2025年4月25日

 「令和の米騒動」が止まらない。昨年9月の当欄で「すぐ収まるだろう」と書いたことを悔やんでいる。米価高騰の原因や今後の見通しには諸説あるが、恥の上塗りになりかねないので今回は論じない。代わりに、この事態の意味を考えてみる。

 「米が高いのでパンやうどんに切り替えた」といった消費者の声が、最近よくメディアで紹介される。その度に「いや、いくら値上がりしてもまだ米の方が安いでしょ」と心の中で突っ込みを入れていたが、どうも怪しくなってきた。

 そう思ったのは、三菱総合研究所のウェブサイトに4月3日付で掲載されたコラム「食と農のミライ」を読んだからだ。総務省などの統計を元に今年2月時点の価格水準で試算すると、炊いたご飯1膳(150㌘)は約57円、6枚切り食パン1枚(60㌘)が32円になるという。ちなみに2023年4月の時点では、ほぼ同額だったとのこと。

 ただ、カロリーの違いも考えるべきだと思い、そこからは自分で調べた。農水省などによると、ご飯1膳の熱量は234㌔㌍。食パンはメーカーなどで違うが、6枚切り1枚でだいたい160㌔㌍前後だ。これを元に1㌔㌍当たりの単価を計算すると、ご飯が0.24円、パンは0.2円と、やはりパンの方が安い。

 これは深刻な状況かも知れない。日本の1人当たり米消費量は過去60年程度で半分以下に減り、それが食料自給率(カロリーベース)低下の一因だった。小麦より安い米を食べなくなったのは、豊かさの中で食の多様化(洋風化)が進んだからだ。今は実質賃金が下がり続け、格差や貧困が広がっている。貧しくなっていく日本社会の中で「小麦の方が安い」となれば、米離れが加速しかねない。

 生産現場の厳しい現状を考えれば「米は今まで安過ぎた」という意見もうなずける。だが、高値を喜んでもいられない。生産も消費も減り続ける縮小均衡の果てに、気が付いたら米は主食でなくなっていた――そんなことにならないよう生産者、消費者、関連業界、そして農政当局が適切な生産支援や消費、価格形成のあり方を一緒に考えていく必要があるだろう。

(飯舘村地域おこし協力隊・いいたて結い農園勤務/農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2025年4月25日号掲載

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