日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉みどり戦略を“本来”の農業への回帰運動に

2022年3月5日

 みどりの食料システム戦略(以下、「みどり戦略」)に係る法案は、2月22日に閣議決定され、国会に上程された。本法案については、新年度予算が決定された後、4月頃に審議される見込みであると聞く。

 みどり戦略は2050年を目標に農林水産業からのCO2ゼロエミッション化、化学農薬の使用量50%低減、化学肥料の使用量30%低減、有機農業の取組面積比率25%(100万ha)等を目指しており、日本農業の質的な大転換を促していくことをねらいとするが、その割には現状、現場への浸透度は低いのが実情であり、今後、本格的な取組みを展開していくためには相当な覚悟と努力が求められる。みどり戦略の背景にあるのは地球温暖化にともなう気候変動対策と生物多様性の喪失にともなう生態系保全であり、目標を掲げながらできなかった、では、未来世代に対する責任を果たせないということになる。

 やるしかないということではあるが、みどり戦略については生産現場からすると大きな違和感があり、ここでは二つのことを指摘しておきたい。

 一つは、農林水産分野からの温室効果ガスの排出量が全排出量の3.9%(2019年度)を占めていることにともなっての「農業者は加害者である」という認識についてである。GDP比で1.0%の農林水産分野が、排出量の3.9%を占めているのは過大だというのは事実ではある。しかしながら農業は山(森)-里(水田)-川・海という循環の中に位置づけられるとともに、微生物等の働きによって物質の循環を促進する機能を発揮することによって成り立っている産業である。そして国土保全、水源涵養、自然環境保全、景観形成等の多面的機能を発揮している。このためにも生産者は連綿と労苦を重ねてきた。

 すなわち農業は本来、こうした自然循環機能や多面的機能を発揮しており、環境にやさしい、環境を創造する産業であるという基本認識がまず明確に置かれるべきではないか。その環境にやさしい農業が、近代化に伴って化学肥料や化学農薬等の過剰な使用にとって環境汚染をもたらしてきたのであり、みどり戦略は環境負荷を低減することによって本来の農業に立ち返る運動として位置づけられるべきと考える。

 第二に、みどり戦略展開の手段としてイノベーションが盛んに強調されるが、地球レベルで温室効果ガス排出の抑制に最大の効果を発揮することになるのは、農産物・食品の物流距離を短縮するところにある。地産地消を推進することもさりながら、まずは輸入から自国産へのシフト、食料自給率の向上をはかり食料安全保障の確立をはかっていくことがファーストシナリオとして描かれて然るべきではないか。

 このように農業が本来の農業を目指して、自然循環機能を取り戻し、生態系を保全するとともに、食料自給率を向上させ安全保障の強化をはかるために〝みどり〟を増やしていくのであれば、生産者も消費者も国民あげてみどり戦略の目標実現を目指して立ち上がることに躊躇はないのではないか。基本認識の整理が何よりも先決であり、肝心であるように思う。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2022年3月5日号掲載

keyboard_arrow_left トップへ戻る